振り返ると、3月は初旬に米・欧で銀行の経営危機に対する市場の警戒が高まり、一時的にも世界的な金融システム不安が広がったことにより、国際金融市場も大いに動揺するという一幕があった。
しかし、リーマン・ショック時の貴重な「教訓」も手伝い、米・欧の当局による事態への対応が極めて迅速かつ十分なものであったことから、月末にかけては市場の混乱も終息に向かう。結果、一時は2万7千円割れの水準まで大きく下落した日経平均株価も、3月末には再び2万8千円台を回復するに至った。
米・欧の銀行における一連の流動性問題はリーマン・ショック時のそれとは大きく性質が異なるものである。端的に言えば、問題となった銀行の経営があまりにも杜撰であった。なお、一部米銀の経営問題については、トランプ政権時代に規制強化の一部を緩和したことが一因であった可能性も指摘されている。
いずれにせよ、今回のことで米当局が今後、信用基準を厳格化する可能性は高い。執筆時には、バイデン米大統領が銀行規制の復活を要請したとも伝わっている。規制が強化されれば、そのマイナス効果は銀行のみならず、広く米国の実体経済にも影を落とすこことなろう。
むろん、市場はすでに米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めのペースが今後、大幅に鈍化していくことを見込んでいる。それどころか、執筆時点の市場においては「5月に0.25%ポイントの利上げを実施し、6月は据え置くが、7月から年末にかけては0.75%ポイントの利下げを実施」というところまで想定する向きも少なくないという。
一方で、なおもFRB高官らは市場の見立てよりタカ派寄りの姿勢を堅持している。ただ、市場はFRBに対して相当な不信感を抱いており、結果として市場における「年内利下げシナリオの織り込み」は今しばらく続くと見ておく必要があるものと思われる。
そう考えると、当面はドル/円が3月8日高値(=137.91円)の水準まで値を戻すことも決して容易ではなさそうである。3月初旬に米2年債利回りが5%を超える水準に達したことなど、もはや幻のように思えるほどだ。
とはいえ、金融システム不安の後退は「リスク回避の円買い」を巻き戻す動機にもなり、そのぶんドル/円の下値はおのずと限られるようにもなる。また、不安の後退と同時に台頭する年内の米利下げ期待は米株価を下支えするとともに、日本株の強気材料にもなり得る。徐々に外堀は埋まり始めているのだ。
知ってのとおり、東京証券取引所(東証)は3月末、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業などに、株価水準を引き上げるための具体策を開始・実行するように要請する通知文を出した。東証によると、プライム市場に上場する1倍割れ銘柄が1倍にまで是正された場合には同市場の時価総額が約150兆円増加するという。
PBRを引き上げるためには、まず自己資本利益率(ROE)を高めることが1番だが、もう一つ株主資本自体を圧縮するという方法もある。そのために自社株買いを実施する企業は既に増加傾向をたどっており、その累計額は22年度に過去最高を更新した。23年度も、自社の株式価値を高めようとする企業の工夫や努力は継続され、全体水準の底上げにつながることが期待される。
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田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。