「検索ビジネス」の世界で他を圧倒する勢いを見せている米グーグル社。そのグーグルにここに来て反旗を翻し始めたことで物議を醸している勢力がいる。我が国・ニッポンである。
報道によると経済産業省は昨年10月に「データ駆動型経済社会における競争政策を考える懇談会」を非公開で設け、対グーグル独占戦略を策定し始めているのだという。
我が国の経済産業省には二つの流派の人脈がある。一つは「海外隷属派」とでもいうべき人脈であり、米欧が要求してきたことをとにかくこなそうと躍起になる者たちである。これに対して「国士派」とでもいうべきもう一つの勢力がいる。彼らは前者とは真逆であり、米欧によるマーケット支配から何とかして逃れようと画策する。こうした二つの顔を持つのが、我が国政府当局の経済産業行政なのである。
件(くだん)のグーグルの話も例によって後者の人脈がひそかに打ち出し始めた話だと直感的に私は理解した。だが、それと同時に非常なる危うさを感じることも事実なのである。なぜか。
この「国士派」は非常に徹底しており、何から何まで我が国だけの力でやろうとする癖があるのである。コンピューターの世界でいうと1980年代に鳴り物入りで始めた「第5世代コンピュータープロジェクト」がその典型だ。あの時も我が国の官僚たちは「米国によるコンピューター独占はいかがなものか」といきり立ち、次の世代であった「第4世代」を乗り越え、「第5世代」を目指そうと大量の資金を使って専門家たちによる研究を行わせたのである。
だが結果は散々なものであった。コンピューターの発展のために必要なのは、最新のデータが次々に流れ込むルートをどのように確保するのかという「知識」の課題と、そうやって得るデータをどのように分析するのかという「推論」の課題をバランスよくこなしていくことである。だが我が国は後者をクリアしかけたが、前者はクリアできなかった。誰も好き好んで大量のデータを黙々とコンピューターに流し込む作業をしたくなかったからだ。しかも、せっかく作った第5世代をどのように商業利用するのかも全く検討されていなかった。そのため、プロジェクトそのものがもはや歴史の藻くずとなって消え去ってしまったのである。
一方、これらの点について完全にクリアしたのがグーグルなのだ。2010年ごろに急激に進歩した新しい推論技術「ディープラーニング」は、日進月歩で発展している。他方で「検索」のプラットフォームを全世界に対して無料で提供することにより、逆に検索入力を通じたリアルタイムのビッグデータ入手が可能となった。その結果、今や2045年には「感情をもったコンピューターすら登場するのでは」とまで強気の議論が繰り広げられるようになっているのだ。
米国勢がなぜこんなに懸命になるのかといえば、世界経済のデフレ縮小化の中でも生き残るべく大幅なコストダウンを図るには人工知能(AI)活用しかないからだ。このままいけば例えばガンの確定診断も人工知能の「医師」が厳密に行うことになる。心臓外科手術でさえ、人工知能の手によることになるはずだ。そして、そのように浮かせたコストをもってさらに全く新しい分野へ投資する。これが米国勢の戦略なのである。
そんなところに「グーグルによる検索独占はいかがなものか」と局所的な議論を我が国が仕掛けてきたらば迷惑なだけなのである。インテリジェンス機関も利用する中、米国は大切な虎の子・グーグルを守りきろうとするはずだ。猛烈に反発する米国勢をも説き伏せるほど我が国の「国士派」官僚・政治家たちに気概と本当の戦略があるのかどうか。あるいはかつての「第5世代コンピューター」と同じく歴史の徒花(あだばな)に終わってしまうのか。始まったばかりの「反グーグル帝国戦争」から目が離せない。
原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
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