今年も秋になり、恒例の世界一周出張をしてきた。今回はいったん米西海岸に立ち寄ってから今度は逆向きに一周半するという行程だった。ほぼ毎日移動し、寄港地を渡り歩いていくと不思議に飛行機がタクシーであるかのように思えてしまう。その中で数多くの国々に暮らす様々な友人・知人たちと意見交換してきた。リアルタイムで世界の人々が思い描くイメージを鳥瞰したというわけだ。
そうしている中で一つ、とんでもなく驚いたことがある。シアトルでも、ベルリンでも、そしてロンドンでも友人たちからこう聞かれたのだ。
「で、日本は一体いつ中国と戦争を始めるんだい?」
そう尋ねられて、私は心底びっくりした。何にびっくりしたのかと言えば、この質問をしてくる友人たちの顔は、いずれも正真正銘の真顔であって、日中開戦の可能性を信じて疑わないといった調子だったからだ。
私から見ればむしろ米欧の方が戦争リスクを抱えていたのに、である。事実、今年9月末になって米国はシリア領内に展開している「イスラム国」に対して空爆を実施。その後、英国などもこれに続き、戦線は徐々に拡大しつつある。
例えば友人の一人である華僑エリートは実に心配そうに私の顔を覗き込み、「尖閣諸島の問題ってこれからどうなるんだろう」と尋ねてきた。その様子を見て、米欧のマスメディアによる刷り込みは、すさまじいレベルで行われていることを実感しつつ、私はこう答えたのだ。
「日中開戦なんてありえません。むしろ日本と中国は大きな絆で結ばれています。ただ、どのレベルで見るかによって、あたかも反目しあっているかのように見えるのかどうかが決まるのです」
つまりこういうことだ。――中央銀行の世界に暮らす読者であれば、先刻ご承知の通り、実は日本銀行と中国人民銀行ほど仲の良い中央銀行は、この世に存在しないのである。中央銀行といえばそれぞれの国々の「根源的な階層」が深くコミットすることで出来上がった組織である。
つまり日中双方の「根源的な階層」がその実、大いなる友好関係に立っていることをこれは示しているのである。「根源的な階層」とは通要するに王族のことを指す。我が国でいうならば「皇族」である。
「それでは日中双方でこの根源的な階層が相交わるタイミングは一体いつだったのか」
そう考えあぐねる私に対して、とある師がこう囁いてくれた。
「答えは清朝の愛新覚羅氏がどのように江戸幕府の徳川家に交わったのかにある。まずは我が国のどこに愛新覚羅の足跡があるのかを調べるのが良いだろう」
無論私はまだ結論を出せてはいない。あくまでも妄想のレベルだ。だがそのことを大前提としながらもこう考えてみたらどうだろうか。――金本位制で世界制覇を狙う英国は清朝にその採用を迫った。だが愛国心あふれる能吏がこれを拒み、アヘン戦争となる。その知らせを聞いた幕府は、一計を案ずる。どうやって列強を相手に戦わずして、この国難をかわすべきか。
そこで幕府は天皇の裁可を得つつ、「大芝居」を打った。まずは、国内で新勢力が旧体制を打ち破ったかのように演出する(明治維新)。その上で清朝と喧嘩するふりをし、勝利する(日清戦争)。清からは賠償として金(ゴールド)を獲得したことにし、それをもって金本位制を敷く。やがて韓国併合に至り、現在の北朝鮮にあたる地域で大量の砂金を獲得し、それをバックに朝鮮銀行券を発行。その流布を旧満州地域で行い、やがて清朝由来の地で「満州国」を建国し、愛新覚羅の皇帝を迎える――。
繰り返しになるが、これは現段階において、あくまでも私の「妄想」に過ぎない。だが妄想と現実ほど紙一重なものはない。そして、それを恐れている海の向こうの者たちが、「日中同盟」を阻止しようと蠢いていることが気になって仕方がない。全ては果たして本当に「妄想」なのか? 深まる秋の夢は、覚めることがない。
原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
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