改憲で国防ビジネスに走る安倍政権の近視眼

時代を読む-第4回 原田武夫

時代を読む-第4回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第4回

景気が悪くなると、米欧がこれまで繰り返してきたことが一つある。それは「戦争」を始め、軍事ビジネスでひと儲けするというやり方だ。なぜこれが景気対策になるのかといえば、高額な兵器を大量消費することで供給過剰が一気に解消するからである。

戦前の我が国もこの仕組みを持っていた。「ゼロ戦」「戦艦大和」に代表される我が国の兵器はあまりにも高性能であったが、だからこそ米欧が脅威の念を抱き、徹底してたたきつぶされた。そして敗戦。GHQという名でやってきた米国は我が国の軍事技術を根絶やしにすべく画策し、ついには「平和憲法」をあてがうに至る。その9条2項で「集団的自衛権」を認められていない我が国の自衛隊は、伝統的な意味での「軍隊」としては満足な装備も持つことなく、現在に至っているというわけなのだ。

この点をとらえ、「日本を取り戻せ!」と声高に叫び、改憲を主張する向きは昔から大勢いた。しかし、同時にこうした動きに反対する陣営がこれを上回っていたことも事実なのである。「平和憲法」によって世界各地で米欧が先ほどの論理で火を付けてまわるさまざまな戦争に戦後の我が国が巻き込まれず、ひたすら経済再建に力を入れることが出来たのは「平和憲法」のお陰だったからである。

ところが安倍晋三政権は、その意味でのパンドラの箱を再びこじ開けようとしている。しかも本当は「9条改正で完全なる国防軍を創るのだ」と真正面から主張すべきなのに、あえてそうはせず、姑息なまでにも「まずは手続きに関する96条を改正すべし」と主張してきた。これに「日本を取り戻せ!」と感情的な向き(多くが金融メルトダウンで転落した「不満層」)が追随し、大きな流れになりかけたのである。

安倍晋三総理大臣の真意は見えている。いわゆる「アベノミクス」で確かに大量のマネーがマーケットにまかれつつある。だがそのカネを銀行が貸そうにも消費が冷え込んだままの我が国で旺盛な事業活動を行う企業は希有であり、貸出先はないのである。そのためマネーは銀行で塩漬けになりかけている。「公共事業があるのでは」と言われるかもしれないが、「国土強靭化」を掲げて公共事業を行おうにも今や1970年代の列島改造論のようなわけにはいかないのだ。

そこで安倍晋三政権は一計を案じたのである。禁断の「国防ビジネス」に打って出るのである。フル回転で兵器をつくり、国(防衛省)がこれを買いまくるというのであれば、やはり自衛隊には限界がある。だから「国防軍」が必要であり、そのための改憲、手段としての「96条改正」となるのである。

安倍晋三総理大臣にしてみれば、まさに「高貴なウソ」をついているつもりなのであろう。つまり「統治のために必要なことだが、正確に説明すると被統治者である国民に反対されるので詳細な説明はしない」というわけなのだ。愚かなことに、そうした俯瞰図(ビッグ・ピクチャー)を知らない国民の多くは、中韓との領土紛争に対する備えのためにはやむを得ないとまで考え始めていたほどだ。

2発の原子爆弾を投下されつつも、我が国国民は未だ「戦争」に懲りてはいなかったというわけなのだ。何とも笑止な話である。

結果、あまりにも近視眼的な動きに水を差したのは、他ならぬ米国であったと聞く。GW中に訪米した自民党議員団に対し、米国側から「改憲反対」の意向がはっきりと伝えられたのである。これを聞いた官邸は一気にトーンダウンした。

この国に果たして深謀遠慮の働く本当のリーダーは、いつになったら現れるのか。軽々しく「戦争」へと国民を導きかねない安倍晋三政権の愚行にそう溜息をつかざるを得ない。

原田武夫(はらだ・たけお)
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年に自主退職。2007年から現職に。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いのもと、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で行う。近著に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)『「日本バブル」の正体~なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(東洋経済新報社)がある。
https://haradatakeo.com/

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。