うつ病になるアメリカとどう付き合うべきか

時代を読む 第47回 原田武夫

時代を読む 第47回 原田武夫

トランプ
トランプ

ひと頃大騒ぎされた「トランプ・ショック」が、今度は株価の上昇によって「トランプ・チャンス」と叫ばれ始めたのも束の間、今年に入ってから「トランプによるジャパン・バッシング」が始まっている。「トランプはビジネスマン。最後はビジネス交渉で相互に譲り合うはず」などと甘いことを言っていた御仁は息をひそめ始め、「トランプ政権になってから我が国はいじめ抜かれるのではないか」といった悲観論まで聞こえてきているのである。さて、どう考えるべきなのか。

そう思い始めた矢先、信頼すべきとある賢人からこんな示唆をいただいた。

「トランプを理解したいのであればうつ病とは何かを知るべきだ。しかも屈強な男が何かの拍子にうつ病になってしまった時にどうなるのかを知れば、今後、トランプ政権が率いるアメリカとの付き合い方も分かるはずだ」

実に興味深い指摘だと思った。賢人の言葉はこれでおしまいではない。こんな続きがあった。

「今後はうつ病だとすれば、これまではそう病だ。グローバリズムで前進ばかりしていたユーフォリアは、まさにそう病そのものだった。その病が冷め、今度は一気に逆向きになるというわけだ」

うつ病になると、何事についても悲観的に物事を考えるようになる。その結果、引っ込み思案になり、何かを積極的に進めることがなくなってしまう。いや、それどころか、「絶対に失敗するだろう」とおびえるばかりで前へ、そして外へと出ていくことがない。結果として大変な引っ込み思案となり、内にばかり籠るようになるというわけなのだ。

しかも問題は「屈強な男」であるという点にある。ただのうつ病患者で、しかも脆弱な体質の持ち主であれば、内に籠るばかりでよいのだが、これが一度は天下を取ったほどの屈強な輩となると、今度は他者と比べてあまりにも弱気になっている自分が嫌で嫌で仕方がなくなるのだ。

そんな時に「こいつはこの間まで調子よくやっていたけれども、ここに来てどうも調子が悪くなってきたらしい。では、ここらで一度、これまでの意趣返しでもしておくか」などと、それまではいじめられてきた側が襲い掛かったならば大変だ。「屈強な男でありながらうつ病である」側は、たちまちあらん限りの大声をあげ、激しく反撃してくるからだ。この辺の攻撃性を見誤ったかつての弱者は、突然の展開に恐れおののき、かえってこれまで以上にこの大男の言いなりになる、というわけなのである。

賢明なる読者の皆さまにおかれては、既にお察しの通り、要するに「だから今、アメリカにはトランプ大統領」なのだ。

グローバリズムというそう状態が虚妄であったことをようやく悟った大男・アメリカは、今度は日に日に内向きになっている。「TPPは駄目だ」「NAFTAも駄目だ」と言い出しているのは、そのせいである。その一方で、我が国の側は落日のアメリカに対して正直、やや小気味よく思っている。そうした態度が気に食わないとばかりに、トランプは「ジャパン・バッシング」を始めたというわけなのだ。

「それでは肝心の我が国はどうなのか? そうとうつ、そのどちらなのか?」

この点については、次回のこのコラムでご説明したいと思う。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

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