我が国においては今、「2020年の東京オリンピック・ブーム」である。特に経済界ではそうであり、「このプロジェクトはオリンピック狙い」「この案件はオリンピックによる需要増を見込んだもの」といった言葉が当たり前のように語られている。しかし私のみならず、「マーケットの通」であればこうした言葉が、決して“当たり前”ではないことにすでに気づいているのである。なぜか。
私の研究所は定量分析と定性分析を併せたところで未来を読み解き、これを皆様にご説明することを生業としている。前者は要するにAI(人工知能)を駆使して未来を読み解くものであり、後者はヒトだけが持っている直観もフル稼働して公開報道を読み解き、その背後にあって実質的な「意図」をあぶり出していく作業に他ならない。そして大変興味深いのはこれらのうち、どちらか一つで良いというものではないという点なのだ。前者だけでは山のようなデータの中で「このタイミングで何かが起きるかもしれない」という確率論的な結論は出てくる。
だが、最後の最後に「一体何が起きるのか」と言う点は、全く分からないのである。他方、後者のみでは「このことがどうやら起きそうだ」というトレンドは分かるものの、「一体いつそれが起きるのか」を具体的に指し示すことは、不可能なのである。だからこそ両方が必要になってくるというわけなのだ。
こうした「定量」と「定性」を重ね合わせた時に今、何が見えてくるのであろうか。―実は我が国経済における「デフォルト(債務不履行)」の嵐なのである。もっともデフォルトと言っても世上を騒がせている「国家のデフォルト」そのものではない。そうではなくて、まずは民間経済からそれは始まることがデータ上は読み取ることができる。それではその気になるタイミングはというと「2019年3月前後」なのである。これは不思議なことに昨年(2016年)ごろより、全く変わらないタイミングなのである。そして企業がデフォルトになるということは結局のところ、最後の最後に「ラスト・リゾート(最後の貸し手)」としての国家が出てこざるを得ないのは目に見ている。だが、いよいよ国家が出てくるとなると、もう後がないのである。崖っぷちに立たされた国家は、余程のことがない限り、ついに自らがデフォルトへと陥っていくことになる。「国家債務不履行」の始まりだ。
このことは何も我が国に限った現象ではない点に留意しておく必要もある。なぜならば、オリンピックとなるとその前に、過剰投資が官民を挙げて行われる結果、実のところ肝心の「開催日」よりも前に、「オリンピック景気」が終わってしまうことはよくあることだからだ。その結果、我が国は2020年を前にして、2019年に絶体絶命の危機の時を迎え始める可能性があると考えられるのである。
ところがそうしたことを我が国政府は、全く考えていないのだ。「2019年にG20の議長国となる」と勇んで立候補し、無事に当選した。だが、それはあまりにも浅はかだったのである。私はG20を支えるビジネス・リーダーの集まりであるB20のメンバーであるのでよく知っているのだが、実はG20の議長国であると、それ以外の関連する民間レベルでの会合を山のようにこなしていかなければならないのである。そしてまたこれらの国際会議は単にイベントであるだけではない。その場で必ず、我が国から出席する全ての参加者がこう尋ねられる。―「ニッポンは一体、このデフォルト問題をどうやって解決しようとしているのか? そもそも解決する気があるのか?」
これで読者の皆さんにもお分かりいただけたはずだ。我が国にとってクリティカル、すなわち差し迫った形で重要なのは「2020年」ではなく「2019年」なのである。国際場裏で私は現実にそうした質問を矢のように受け始めている。これこそが我が国が抱えている最大の課題なのだ。「モリ・カケ」といった内向きの宿題ではないのである。
原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています