インバウンドビジネスという罠

時代を読む 第60回 原田武夫

時代を読む 第60回 原田武夫

マリオカートのコスプレをした人々

今、我が国で「インバウンドビジネス」が盛り上がっている。とりわけ地方創生という呼び声は高らかなものの、その実、全くうまくいっていない我が国の地方経済にとっては、切り札とされている感がある。だが、こうした現実を見て、私はたまらなく嫌悪感と違和感を覚えてしまうのである。

最近、東京の夜の街を行くとカラフルな装束を身にまとった外国人たちが、ゴーカートを公道上で乗り回しているのにしばしば出くわす。バイクと同じような貧弱さであるにもかかわらず、ヘルメットもかぶらず、しかも低速走行に爆音である。交通渋滞が自分たちによって起きていることなど全く気にもかけない様子であり、我が物顔なのだ。

ところがそれを眺めている日本人はというと、とてつもなく寛容なのである。どんなにうるさくても文句は言わない。むしろほほえましく手などを振ったりもしている。

それでもまれにしかめっ面をしている向きもいるが、決して「こら! うるさいぞ!」とは怒鳴らないのである。「英語で言わないと通じないのではないか……」といった遠慮を感じる。

「外国人排斥こそが過去の過ちだ。1億2千万人もいる我が国の人口に比べれば外国人観光客など、その数はたかがしれている。日本在住外国人も数はわずかだ。何も目くじらをたてる必要はないのであって、それこそ外国人排斥という過去の遺産にとらわれた発想なのではないか」

そう、お考えになる読者も大勢いることであろう。だが、私の目からすれば、それこそ実に甘い発想なのである。なぜか。

私の父はかつて、1980年代にはまだ希少だった「国際ビジネスマン」として、活躍していたサラリーマンであった。そんな父が、大学生となった私が最初の海外旅行に旅立つ時、こう言ったのである。

「良いか、武夫。外国人が日本人に親切な顔なんて絶対にしないからな。もし笑顔で向かってきたらば必ず悪だくみしていると思え。絶対に信じてはならないぞ」

なんと偏狭な思考の父親なのかと、驚かれるかもしれない。だが、もしこんな話を聞いたならばどうであろうか。―米欧を筆頭とした諸外国に暮らす外国人たちが待ち望んでいるのは、「日本人のいない日本が出来ること」だ。

おおいなる矛盾のように聞こえるかもしれないが、よくよく考えてもみてもらいたいのである。風景や自然、そして文化は優れているのが我が国なのだ。こうした事どもに日本語という難解な言語は無関係であるだけに、外国人たちは実に好んで我が国にやって来るのである。そして彼らは文字通り「ニッポンをエンジョイ」する。

だがそこに暮らす日本人、すなわち我々はというと全く話が別なのである。たいていの人々は日本語しかできない。英語をしゃべると「いや、私は話せないので……」とそもそも意思疎通を拒否する。何を考えているのか分からず、それでいて親切そうであり、さらには「金持ちそう」なのである。そうである時に、「この邪魔ものの日本人の存在を消してしまえば、後にはその資産と豊かな自然に恵まれたニッポンが残るのであるから最高なのではないか」と米欧の統治エリートたちが考えても全く不思議はない。

事実、最近、こんなことを聞いた。―今、米欧の統治エリートたちは、プライベートジェットの着陸地点として「静岡」に目を付けている。そしてそこに国際金融資本が「文化の殿堂」を打ち立て、それを隠れ蓑にして我が国に暮らす「日本人を無効化」するためのプログラムを着々と進めようとしている。東京では巨大銀行を買収し、世界にも通用する仮想通貨を発行して、日本の国富の全てをそこに載せ替えようとする。

「新たに始まった国盗り物語で狙われているのは日本」

この冷厳な現実を前にした時、インバウンドビジネスで盛り上がる御仁たちが、あまりにも幸せそうに見えるのは、私だけであろうか。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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