こんな話を聞いた。――我が国の財務省の公式ホームページを見るとこんな一文がある。
「『還付金残高確認証』(架空の証書)についてのご注意」
ホームページ上には額面が500億円の我が国政府発行の債券を用いた詐欺が横行しているが、そもそもそんな債券は存在しないのだから、気を付けるよ
うにと一般国民向けの注意喚起が書かれている。
ところが、だ。実は現に「還付金残高確認証」は存在しているのである。ただし額面は500億円ではなく、一桁多い「5000億円」だ。もっと正確に言うと「第43回」と「第57回」の二つのタイプが存在しているのである。その真相をとある専門家からじっくりと聞くことができた。
1980年代前半、我が国は財政危機に陥りかけた。その際、我が国の政治的なリーダーシップの判断により、この「還付金残高確認証」が国家財政の外側で発行されたのだという。いざという時には、それを持ち出して国家財政を破は 綻たんの際から救い出そうという考えに基づいていた。
しかし、そもそもそんな債券が存在しているのであれば、国民から「税金をまけろ」の大合唱になるのが常なのである。そこで当時の我が国の有力な政治家たちは一計を案じた。特定の社会階層に属する社会福祉法人の理事長たち複数名に「いざという時にだけこの債券の束を返してほしい。それ以外には絶対に使ってはならないし、ましてや家族であってもこの存在を漏らしてはならない」と口封じをした上で、この「還付金残高確認証」を預けたのである。当然、それなりの口止め料が支払われた。結果として我が国は危惧されていたような財政危機に陥ることはなく、事態は何事もなく過ぎ去るかのように見えた。
そして月日が経ち、理事長たちは続々と鬼籍に入り始めた。すると今度は、重大な問題が発生し始めたのである。残された夫人たち、あるいは子供たちが故人となった理事長たちの有価証券の束を確認すると、出るわ出るわ、この「還付金残高確認証」の山が出てきてしまったのだ。多くの者たちが「これはしめた!」と思ったに違いない。当初は我が国政府が把握していたはずの「還付金残高確認証」は瞬く間に飛散し、我が国社会のどこか、あるいは海の向こうへと消え去ってしまったのである。
私にこの話を教えてくださった専門家は、このようにして飛散した結果、そのうちの数枚が手元にわたった老人の妻が、筋の悪い連中に運悪く依頼してしまい、換金騒動が引き起こされた際に、これを静かな形で解決した人物だ。この話についてこれ以上は語ることができない、と言いながら専門家氏は私にこんなことを最後に教えてくれた。
「この還付金残高確認証を扱えるようなレベルの政治家はもはや我が国にはいない。それくらい高いレベルでの判断に基づくものなのだ」
虚々実々とはこのことだろうか。本来、全くもって偽物なのであれば、我が国政府は「還付金残高確認証」の回収に躍起になるはずもないのである。専門家氏は「記番号リスト」を手元に持っていると語っていた。それと照合すれば、偽物は立ちどころに分かるわけだが、逆に言えば「本物」であることも認定されてしまうのである。
しかし我が国政府は今、これを財務省の窓口に持っていっても、一円たりともひねり出そうとはしないのだ。その代わりに、時にむき出しの暴力をちらつかせながら、これを懸命に回収してまわっているのである。この「還付金残高確認証」に一点たりとも“真実性”がないのであれば、無視すればよいのに、だ。
虚々実々の向こう側には、何が待っているのか。今日もまた、「還付金残高確認証」が一枚、あなたの周りで舞っているのかもしれない。
原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています