個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第23回

Text 永峰 潤
ビットコイン

暗号資産あれこれ(承前)

暗号資産と税金

暗号資産の税務に関する国税庁の見解は「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」で明らかにされており、市販の解説本もすべてこの見解を紹介しています。本稿ではこの中から読者に興味がありそうな部分を抜粋して紹介します。

なお、紙幅の関係から全ての計算例はあげられません。上記見解はネットで入手可能で計算例もあげています。保有する暗号資産を売却した場合の所得金額は、暗号資産の譲渡価額とその購入原価との差額を所得として計算します。

保有する暗号資産で商品を購入した場合

4月2日に4BTCを4,000,000円で購入し、10月5日に403,000円( 税込)の商品購入に0.3BTCを用いた。

その際の交換レートが1BTC=1,350,000円とすると:
403,000円-((4,000,000円÷4 BTC)×0.3 BTC)=103,000円が暗号資産の譲渡による所得になります。

暗号資産同士の交換を行った場合

税務では現物資産の交換と同様の扱いになります。
4月2日に4BTCを4,000,000円で購入し、10月5日に40XRPを購入するに際して1BTCと交換した。

このときの1XRPの交換レートは30,000円だったとすると:
(30,000円×40XRP)-(4,000,000円÷4BTC)= 200,000円が暗号資産の譲渡による所得となります。


暗号資産の取得価額は購入した際に支払った金額に交換業者に支払った手数料を加えたものになります。

暗号資産はフォークと呼ばれる分裂(枝分かれに近い)が行われることがあります。分裂によって取得した新たな暗号資産は分裂時点では取引相場が存在していないため所得は生ぜず、新しい暗号資産の取得価額は0円となります。

暗号資産を売却して生じた利益は原則として引き渡しをした日が属する年分の雑所得になります。雑所得に区分される場合、暗号資産の譲渡による所得は他の所得と合算され総合課税が適用されます(損の場合は後述)。

1年間に複数回の購入と譲渡を行った場合は、その暗号資産の種類ごと(例えばビットコイン)に総平均法もしくは移動平均法(具体的な計算方法の説明はここでは省略します)を用いて譲渡原価を計算しなければなりません。

計算方法は国税庁HPに「暗号資産の計算書」として掲載されています。通常暗号資産交換業者から送付される「年間取引報告書」を基にして計算できます。

なお初めて暗号資産を取得した場合、取得年分の確定申告期限までに、「暗号資産の評価方法の届出書」に総平均法、移動平均法のいずれを選択するかを記入して納税地の税務署に提出しなければなりませんが、提出していない場合は総平均法を選択したものとされます。

暗号資産の譲渡による所得は原則として雑所得とされるため、年間取引の合計で損失が生じた場合は雑所得による損失に区分され、給与所得など他の所得と通算することはできません。

財産債務調書への記載の要否

暗号資産の所在地は所有者の住所地で判断されます(※1)。

したがってたとえ国外の暗号資産取引所に預けてある暗号資産でも国内財産とみなされます。財産債務調書は所得2000万円超でその年の12月31日に3億円以上の財産または国外転出特例対象財産を1億円以上有する個人は提出する義務があるため、該当する場合は国内財産として暗号資産を記入する必要があります(※2)。

国外財産調書への記載の要否

一方、国外財産調書については、暗号資産は国内財産なので含める必要はありません。

なお、暗号資産は有価証券とは区分されないため、居住者が国外に住所を移す場合で1億円以上の有価証券等を有する場合、その含み益に所得税が課税される国外転出時課税、いわゆる出国税は暗号資産には適用されません。

マネーロンダリングに容易に利用できることから、可能性として暗号資産に代えて国外に転出しその後現地銀行で現金化するということもあるのでしょうが、価格変動の大きさから躊躇するのが大半でしょう。

その点からはステーブルコインが海外で用いられている実情もあるようです。

(※1)国外送金等調書規則第12条第3項第6号、同第15条第2項。
(※2)令和5年度分以降の財産調書の提出義務者には、新たに財産保有額が10億円以上の居住者が加わる予定です(令和4年度 税制改正大綱)。

永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。
バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。

※『Nile’s NILE』2022年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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