海外留学・国際結婚と税金
私が留学したのは37年前のことでした。
当時は今よりも国際電話は高額だったので、非常時以外は電話でなく手紙の往復で2、3週間かかる、というのがわりと標準的な当時の学生と親のやり取りだったと記憶しています(ユーミンの曲に「青いエアメイル」というのがありますが確かに青い便箋を使ってました)。
ここ最近はネットで連絡がとれる、更にコロナ以降はZoomなどで動画コミュニケーションが可能になったというところでしょうか。
今回は我々の身近で普通に起こることが多くなった子供の海外留学や国際結婚にまつわる贈与や相続の話を取り上げます。
留学時の国外送金
子供が海外留学している間、親が子供に送金することは普通に行われていると思います。相続税、贈与税の世界では親の扶養になっている者が留学などで日本を離れている場合は、住所が明らかに海外にあると認められる時を除いて日本国内に住所があるものとして扱われます(※1)。
送金の内容は大きく二つに分けられるでしょう。生活費または教育費に充当するために通常必要とする限度内の送金と、必要な限度を超えた送金です。
前者の場合は扶養義務の対象たる子供への送金なので殊更に税金がかかることはありません。これに対して後者の場合は必要限度を超えるお金は贈与として扱われます。
海外留学などで日本を離れている場合、国内に住所を有するか否かの問題はあるとしても、結局のところ、子供の住所地が国内外を問わず、限度額を超える送金は親から子供への贈与として贈与税の対象になります。
ご存じの方も多いと思いますが、年間110万円までは贈与税はかかりません。前々回のコラムで取り上げたように、贈与税は暦年課税であり将来の相続税の計算には影響をあたえません(※2)。受贈者が未成年の場合、税率が3000万円を超える部分については55%になるが、300万円超400万円以下の部分は20%であることから、たとえば1年に500万円を贈与すると贈与税は530,000円(※3)となり、10年間続けると総額530万円になります。これに対して1度に5000万円を贈与すると22,895,000円(※3)になり、実に17,595,000円も節税効果があることから、この合法的な節税策を実践されている方が結構おられます(※4)。
このことは政府税調でも問題視されだしており、近い将来、何らかのメリットを縮減する方向での政策が出されることと予測されます。
ところで、生活資金かはたまた限度を超えた贈与かの分かれ道は何かを簡単にいえば、すぐに(年を跨がないで)生活費に充てられて使い切るならば、それは生活資金といえ(もちろん常識的な限度というものはありますが)、毎月、生活資金を補っても有り余る送金があり、余った分が貯金に回されるようなことがあればその部分は贈与である、というように考えてもらえばいいと思います。
子供の生活に必要だからといって海外でマンションを買ってあげるというような行為は常識的な生活補助の範囲を超えているので贈与とされるでしょう。贈与税はもらった子供に申告義務があります。
国際結婚と税金
国際結婚の場合は海外留学と事情が異なります。自分が国際結婚するか子供が国際結婚するかの可能性がありますが、ここでは子供が海外で国際結婚してそのまま海外で生活しているという前提で考えます。この場合に考えられる典型的なシナリオは以下でしょう。
①自分は日本に居住し続けて子供に海外送金する。
②自分も海外移住してしまう。
③自分は日本に居住し続けて将来自分が死亡して相続が発生する。
④自分の海外移住後に自分が死亡して相続が発生する。
さらに番外編で、
⑤子供夫婦は日本で住み続けているが子供の配偶者の海外居住の親が子供の配偶者に送金してきた。
⑥子供夫婦は日本で住み続けているが子供の配偶者の海外居住の親が死亡した。
⑦子供夫婦は海外居住しているが(同じ国に暮らす)配偶者の親が死亡し、遺言で子供にも相続財産が分配された。
このようなケースもあるでしょう。
国際結婚も税金の話となると聊か興ざめの感もありますが、以下、順番に説明します。
①自分は日本に暮らしたまま子供に海外送金する。
先ほどの子供の海外留学と異なり、国際結婚した子供夫婦への海外送金の場合は子供が日本国籍を有していれば、通常は日本で贈与税の申告義務があります(※5)。贈与税の計算方法は国内間の贈与と何ら異なりません。因みに子供が結婚により日本国籍を放棄した場合でも贈与税がかかります。
続きは次回にしましょう。
本稿のまとめ
☑海外留学の場合、生活資金の海外送金は非課税。
☑生活資金の範囲を超える送金の部分は贈与税の対象。
☑贈与税はもらった子供が払う義務有り。
☑国際結婚家庭への送金は留学のような生活資金の非課税扱いはない。
(※1)相続税法には明確な規定はないのですが、所得税法の規定では1年以上の期間にわたり国外に居住することとなった個人は国外に住所があると推定されます。
(※2)相続開始3年以内の贈与財産は相続財産に含めて計算されます。ただし支払った贈与税は相続税から控除されます。
(※3)(500万円-110万円)×20%-25万円、(5000万円-110万円)×55%-400万円。これらの税率は子供が未成年の場合に適用されます。
(※4)財務省説明資料「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について」(令和2年11月13日)によれば平成30年に贈与を行った人は37万人、そのうち700万円以下の贈与を行った人は34万人です。
(※5)子供が結婚後も親が扶養することについて相当の事情があり、それが扶養義務の履行範囲内であれば贈与税はかかりません。
永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。
監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
※『Nile’s NILE』2021年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています