個人海外投資に必要な国際税務の基礎知識 第2回

Text 永峰 潤
ワイン

国内居住者と非居住者で異なる税金の扱い

冬のこの時期、北海道各地の湖沼には北からの渡り鳥が飛来するのが風物詩になっている。

かたやアジアからも定期的に日本に飛来する、海外に移住した一団の日本人がいる。彼らは健康診断を受診すると何事もなく南方へ帰っていく。一時帰国しただけでは税務上、居住者に当たるとされることはないのだ。

今回は「居住者」の話を取り上げようと思う。

いわゆる居住者とは

居住者とは常識的には日本に住んでいる人のことだが、税法ではより厳密に規定している。

所得税法いわく「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所(※1)を有する個人」である。

住所とは生活の本拠を意味し、生活の本拠は客観的事実によって判定されるのだ。具体的にはその人の滞在日数・住居、職業、資産の所在地や、生計を一にする配偶者や親族が国内に住んでいるか等の事実を基に判定される。非居住者は居住者以外の個人をいい、所得税でも相続税でも非居住者は居住者と異なった扱いとなる(※2)

所得税の扱い

居住者は全世界で生じた所得に課税されるのに対して、非居住者は日本国内にある資産の運用、保有、譲渡などから生じる所得に課税される(※3)

いっとき日本で上場を果たした日本人が株を保有したままシンガポールに移住するケースがあったが、これなどはシンガポール移住者が行う日本株の譲渡は原則として日本でもシンガポールでも課税されないことに着目した海外移住のようだ。現在はこのようなケースは移住時に出国税が課される。

相続税・贈与税の扱い

日本に住所を有しない海外移住者の国外財産が、相続や贈与の時点で日本に住所を有しない日本国籍の相続人等に移転する場合、その海外移住者と日本国籍の相続人等の双方が、国外財産の移転時点でともに過去10年以内のいずれの時においても国内に住所を有していたことがない時に限り相続人等は日本で課税されない。

クライアントに海外生活が20年以上にわたり主要な財産が国外にある日本人夫妻がおられた。ご主人が最晩年に病気療養のため日本の病院で亡くなられたが、「死亡時点における住所」等の事実からは国外に住所を有する者と判断できず日本の相続税を納めることになった。

住所地判断が重要 

住所地によって日本の税金の範囲や有無が決まるため、「住所地判断」は非常に重要である。住所地を巡って納税者と国が争った事案では、広く報道され法律を変えるきっかけにもなった「武富士事件」がある。これは受贈者の住所地が日本か香港かで最高裁まで争われた事案である。

最高裁では、贈与税回避目的でも、法解釈上は生活の本拠たる実態の具備か否かで住所地を決すべきとして、香港居宅と認定した(※4)

我が国で用いる、複数の要素による判断基準は万国共通でなく、米国やシンガポールのように一定の日数基準等で判定する場合が多いようだ。

日本と海外の判断基準が異なるため、現地基準が日本基準に合致するかどうか注意が必要である。シンガポールや香港に183日以上居住しているので、日本では非居住者になると理解(誤解)されている方が間々おられるが私どもは以上の理由をご説明している。

日本の判断基準は

日本の住所地判断であるが、私どもは下記の客観的要素から最近の司法判断も配慮し、これらを総合的に検討して判断している(※5)。読者諸氏もご参考にされたい。

・年間の国別滞在日数
・職業活動の本拠地
・生活場所や居宅の有無等
・生計を一にする配偶者や親族の居住地
・資産の所在地
・各種届出書(住民登録など)

本稿のまとめ

☑非居住者になると、所得税法、相続税法ともに税の扱いが異なってくる。
☑諸外国の住所地判断を日本税法の住所地判断には使えない。
☑住所地は滞在日数のみでなく他の客観的事実を踏まえて判断する。

(※1)居所とは人が継続して住んでいるが住所ほどの密接性がないところで、例えばホテルの一室に継続して住んでいるようなイメージである。
(※2)相続税法では所得税法で用いる居住者判断よりも住所地判断によっている。二つの違いについてここでは立ち入らない。
(※3)非居住者が事業を行うための拠点を国内に保有するとより広い範囲で課税される。
(※4)平成23年2月18日最高裁判決。
(※5)令和元年5月30日東京地裁判決、令和元年11月27日東京高裁判決。

永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学文学部西洋史学科卒業、ウォートン・スクールMBA。
バンカース・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。

※『Nile’s NILE』2020年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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