「アンディ・ウォーホルの作品にインスピレーションを得た料理を、というテーマをもらったとき、正直、最初はお断りしようと思いました」と、リオネル・ベカさんは言う。ウォーホルほど有名なポップアートの旗手だと、どうしてもイメージが固定してしまい、作品を料理へ変換することに抵抗を感じた、というのが理由だった。
ただ、その後、いろいろ調べてみるうちに、これまで知らなかった抽象的な絵に出合い、一人の画家としての力量に心を揺さぶられる体験をした。そして、絵から発せられるエネルギーを料理に落とし込むという作業に興味を持ち、自身のエクササイズにもなると思い、改めて仕事として受けることにしたのだそうだ。
その絵のタイトルは「Abstract Painting」。ずばり抽象画だ。1987年に没した氏の晩年の作品である。こうした抽象画をウォーホルが描いていたことは、あまり広くは知られていないが、まさに心の中から湧き出した思いが、色や形を通して一枚の絵として結実し、見る者に訴えかける。
この抽象画はシリーズ作品で、ベカさんが選んだのは、力強い赤と黄と白の面と線が交錯し、生き生きとした動きが感じられる一枚。1982年に描かれた作品だ。「この絵を見て、どうしても夏の名残を表現したくなり、バターナッツカボチャといくらを使うことを考えました。ただ、それだけの素材から一皿として完成させるまでには、ウォーホルのこの絵が大きな示唆をくれました」