共鳴する思念

開業の地である元麻布から虎ノ門へ移転した「日本料理かんだ」。新しい店舗の設計を担当したのは、かの杉本博司さんだ。杉本博司さんと「日本料理かんだ」の神田裕行さんの対談をお届けしよう。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

開業の地である元麻布から虎ノ門へ移転した「日本料理かんだ」。新しい店舗の設計を担当したのは、かの杉本博司さんだ。杉本博司さんと「日本料理かんだ」の神田裕行さんの対談をお届けしよう。

神田 私もあくまでも割烹というイメージでやっています。それこそミシュランが日本に来た時に彼らからインタビューを受けたのですが、その時は「日本では小さい店が高く評価される」ということを説明しました。フランスで三つ星というと入り口が豪華で、ドアマンがいて、料理人が作った料理をテーブルまで持っていく人が別にいて……というのが王道です。でもその考え方だけでは日本料理店は理解できませんよ、と。
杉本 あちらの価値観での贅沢なもてなしと、日本のそれは内容が違いますからね。
神田 そうなんです。そこで一番参考になるのは茶室だと思います。茶室はお客さまをもてなす空間として進化してきました。最初は豪華なものだったのが、利休が縮めに縮めて、最後は2畳までいった。結局は豪華さよりも、もてなしたいという心があれば客に近い方がいい-という感覚なのでは。
杉本 神田さんの店では、神田さんとお客さまとの距離が近いですよね。
神田 はい。なぜ私がカウンターの店にしているかというと、作った人間がダイレクトに渡すという、一番ミニマムな人間関係で客と店主がいるというようにしたかったからなんです。料理に関して自分がずっと考えているのは、素直に自分がおいしいと思うもの、自分が食べたいと思うものを作りたいということ。カウンターでは、こうして作った料理を、お客さまにまっすぐに届けられるんです。
杉本 それが、いちばん贅沢なこと。
神田 これをやると料理人はあまりもうからないのだけれど(笑)、でもプライドのためにやっているんです。杉本さんは、こうしたことを分かってくださっていますし、実際、杉本さんの料理の腕前は相当なものです。よくお客さまを招いて料理をふるまってらっしゃいますが、杉本さんの作る料理は余分な飾りが一切なく、シンプル。
杉本 お客さまにお作りする時は、「料理屋に飽き飽きした人が食べたい料理は? と考えると、こういうものになるかな」と考えますね。私は料理屋で「何かお苦手なものはありますか」と聞かれると「ごちそう」と答えるくらいだから(笑)。
神田 嫌なお客さま(笑)! でも、いい意味で“侘びた”料理がお好きですよね。
杉本 それが日本料理の割烹の伝統だと思っています。神田さんの料理はこれらの伝統を踏襲していて、私はそれが好きなんです。二人は感覚が似ているんですよ。
神田 似ているということは、最初から私も思っていました。杉本さんの作品は私も大好きです。だからこの店のデザインを杉本さんにお願いできると決まった時は、「ここで、杉本さんに暴れていただこう!」という気持ちでいました。
杉本 予算の中でね(笑)。
神田 予算の中で、ぎりぎりまで攻めてもらって(笑)。特に素材は思うものを集めていただきたかったんです。依頼する時は、厨房とカウンターの間の動線はこう、トイレに行く道はこうしたい、という希望などは伝えましたが、素材については100%おまかせしました。
杉本 素材は自然素材です。それも無垢。張りものはなしで。使えば使うほど味が出てよくなる。そういう場所にしています。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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