浅草に色香漂う
浅草の名所は浅草寺の裏一帯、観音堂の西側に当たる「奥山」と呼ばれた地域だ。境内に楊枝店や水茶屋などが軒を連ねる一方、奥山には見世物小屋が並び、花見がてら参詣をする人たちを大いに楽しませた。
また吉宗の時代、本堂の真後ろに立つ念仏堂では、開祖・善応がやぶ畳を開いて植樹した、その名も「千本桜」が人気を呼んだ。吉原の遊女たちが桜を寄進し、一本一本に源氏名を書いて宣伝したと伝わる。つやっぽい色香漂うこの名所では、桜にちなむ色柄の着物や帯、簪(かんざし)をまとった遊女らの華やかな姿に出会えることも、大きな楽しみの一つだっただろう。
墨堤、圧巻の桜並木
「墨堤」と呼ばれた隅田堤は、三囲(みめぐり)神社から木母寺(もくぼじ)まで延びる隅田川沿いの道。ここには4代・家綱の時代に桜が植えられた。その後、吉宗がまず桜を100本、約10年後に桃・柳・桜を計150本植えたことで、花見の名所になったという。隅田川東岸の約4kmにおよぶ桜並木は圧巻だ。
また向島・長命寺門前の桜餅は今も人気の名物菓子。この寺の門番だった山本新六が、隅田堤の桜の葉を利用して売り出したところ、花見の土産としてとてもよく売れたそうだ。