アウディR8 TDI Le Mans (コンセプトカー)
2008年3月のジュネーブショーで発表されたアウディのスーパースポーツカー、R8 TDI Le Mans。その心臓部に埋めこまれるのは、6リッターV12ユニット、最大出力500PS、最大トルク1000Nmという強烈な性能を持つディーゼルエンジン。そこには、世界3大レースの一つであるルマン24時間レースを制覇した、アウディR10の技術が投入されるという。
アウディは、メルセデス、BMWなど強力なライバルがせめぎあうプレミアムセグメントにおいて、ポルシェ−VWグループのグループ力で培った高い品質感を武器に、今や他をリードする存在になりつつある。とはいえ、ライバルたちも手をこまねいてはいない。メルセデスのAMG63ユニット、BMWのM5に積まれたV10……常に先進の技術を打ち出してくる。これらを前に、もはやパワーだけで市場にインパクトを与えることは難しい。
そこでアウディが放ったスーパースポーツカーが、R8 TDI Le Mansだ。
ルマンで鍛えた心臓
2008年、アウディはディーゼルエンジンを積んだR10でルマン24時間レースを制し、周囲に鮮烈なインパクトをもたらした。それも、2006年以来、ディーゼルエンジンで3連勝という圧倒的な強さ。過酷なルマンでの連勝が、アウディのブランドイメージに与える影響は大きい。しかも、ヨーロッパにおいては身近なディーゼルエンジンでつかんだ勝利となれば、人々の憧れ、賞賛だけでなく、親近感をもひきつけることになる。
ヨーロッパにおいては、新車販売台数の70%を占めるディーゼル。実は、ルマンのような耐久レースではディーゼルのメリットは多く、低燃費による給油回数の減少はもとより、低回転高出力による振動の減少は、車体とドライバーの消耗を減らすという特徴もある。さらに、レースに勝つためには、必要なときに必要なだけのパワーを瞬時に得るレスポンス性も求められるが、アウディはこれを、絶大なトルクを低回転から発生させることで実現してみせた。その無敵ともいえるレーシングエンジンと同様の技術を用いたのが、R8 TDI Le Mansにも搭載される。
スーパースポーツカーの証
スーパースポーツカーの魅力はエンジンにある、そう断言できる。パワーであれフィーリングであれ、とにかくエンジンに魅力がなければ、スーパースポーツの冠を戴くことはできまい。
アウディR8 TDI Le Mansも、その魂はエンジンにこそ宿っている。まず、間違えなく他を圧倒する、1000Nmのトルク。これはディーゼルターボでなくてはありえない。アクセルを踏めば、どこでも無尽のトルク感で応えてくれるそれは、まさにルマンの王者、R10 TDIのエンジンそのものだ。24時間でいかに距離を走るか、そのミッションのためだけに考えつくされたエンジン、そして、ピュアスポーツカーの代名詞であるミッドシップ・レイアウトとアウディが誇る4輪駆動のクアトロシステム、空力———これらが高次元でマッチングし、1000Nmという巨大なトルクを活かしきってこそ、舗装路を高いアベレージで駆け抜けることができる。R8 TDI Le Mans、市販化が待ち遠しい1台である。
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています