逆風を吹き飛ばす、最強のキャデラック
かつて日本国民は、豊かな国土に大らかで明るい人柄や、市民優先かつ民主主義の思想の持ち主、アメリカに憧れた。そして、その象徴であり、憧れを具現したものがキャデラックだった。飛行機のように美しく流麗なテールフィン、パワフルなエンジンは、日本ばかりかアメリカでも富のシンボルであった。
しかし昨今、アメリカからは不穏なニュースが毎日のように届く。キャデラックを持つゼネラル・モータース(GM)をはじめ、ビッグスリーが直面する経営破綻の危機、というニュースには驚いた。世界恐慌とも言われる世界情勢は、とうとうアメリカ車を消滅に導くのかと不安になった。
そんな向かい風を吹き飛ばそうと、日本にやってきたキャデラックがある。2007年10月に2代目へと移行したキャデラックCTSのハイパフォーマンス・バージョン「CTS-V」である。その戦闘的な顔つきには、復権にかけるGMの意地を感じる。最強のキャデラックと称される、CTS-Vの核心に迫りたい。
世界最強のスポーツ・サルーン
往年のキャデラックにあった“大らかさ”をすべて排し、緻密で凝縮されたスポーツ・サルーンをつくり上げたのが、21世紀型キャデラックである。最新にして最高峰のCTS-Vは、メルセデスならEクラス程度のボディに、およそ軽自動車9.3台分に相当する6162ccのV型8気筒OHVエンジンを押し込み、さらにスーパーチャージャーまで添えてしまった。これは同じくGMのスポーツカー、コルベットZR1と同じエンジンであり、発する力は最高出力556ps、最大トルク76.2kg-mと驚愕のスペックだ。世界中のメーカーが自動車開発に用いるドイツ、ニュルブルクリンク・コースを8分ジャストで走りきり、プレミアム・サルーンとしては世界最速を記録した。それはかつての富のシンボルが、スポーツ・サルーンとしての頂点をもぎとった記念すべき瞬間であった。
2009年1月10日、このように生まれ変わった最強のキャデラックが、アメリカの威信をかけて日本の路上を走り始める——。