わずか3日。最初のマスタングがデザインされるのにかかった日数だ。傑作は、得てして一瞬で生まれる好例だ。1962年、自動車の歴史に残る初代マスタングの原型が出来上がった。
米国生まれのマスタング。ライバルと目されたのは、操縦する楽しさと、洒落たスタイリングを持つMGやトライアンフといった英国製のスポーツカーだった。
しかし、カウボーイ、平原、開拓時代の思い出などを呼び覚ます「野生化した小型馬」という意味の名と共に、このフォードのコンパクトクーペは、たちどころに人気を呼び、独自の市場を形成した。
そこからはコンバーチブルや、より高性能を持った派生モデル、いろいろ生まれた。そしてフォードはレースにも積極的に参加。クロード・ルルーシュ監督の大ヒット作『男と女』(1966年)では、欧州でのフォードの活躍ぶりを見ることができる。
当時の映画ファンは、他にもスティーブ・マックイーン主演『ブリット』(1968年)など、マスタングが登場する映画を覚えているはずだ。そして、トランティニヤンもマックイーンも、実際にクルマを愛していたという共通点を持つ。これもマスタングとの接点かもしれない。
そんな時代を「過去」と切り捨てるか「遺産」として大事にするか。フォードは、新型マスタングを送り出すに当たって後者を選んだ。
現代のマスタングは、初代マスタングを特徴付けていた「C」の形を描く車体側面のプレスラインを再び生かし、ウィンドウグラフィクスなど、オリジナルの個性を現代的にアレンジして採用している。
パワープラントは、3.7リッターV6と5リッターV8。燃費の面で貢献する6段オートマチック・ギアボックスを介して後輪を駆動する伝統的なレイアウトを採用している。
豪快なV8、快適なV6
乗れば、V8は力強いトルクと固められた足回りで、日本や欧州のクルマにはない、独特の味を堪能できる。まるでエンジンにまたがったような、ダイレクトな感覚。移動における人間の身体能力を拡大するという、かつて馬に期待された役目を現代的なかたちで楽しませてくれる。
一方3.7リッターV6エンジン搭載モデルも、V8ほどの圧倒的なトルク感はないものの、バランスが取れた出来で、マスタングのエンジニアリングの高さが感じられる。適度にソフトで、乗り心地の良いサスペンション設定など、日常的な使い勝手に優れるモデルだ。
左右対称のダッシュボードを備えたインテリアも、どことなく復古調を感じさせる個性的なデザイン。マスタングは気分を高揚させる乗り物であると、つくづく思わせられる。マスタングにしかない味だ。
かつてと同じように、新型も、欧州や日本のスポーツカーというライバルと正面から向かい合う。個性こそ最大の魅力と感じさせてくれる。
Mustang V8 GT Convertible Premium
ボディ:全長4785mm×全幅1880mm×全高1415mm
エンジン:4951ccV型8気筒
最高出力:307kW[418ps]/6500rpm
最大トルク:529N・m[53.9ps]/4250rpm
トランスミッション:6速AT
駆動方式:FR
価格:5,700,000円
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています