アウディは一貫して先進技術をうまく取り込んで、他にないクルマづくりをしてきた。ドイツ本国には、アウディより前に高級車が存在していたが、にもかかわらず、短い時間で、高級車市場における地歩を築いてしまったのは、アウディにしかない価値を、ユーザーがすぐに認めたからだ。
最上級セダンであるA8でも同様だ。アウディがこの分野に参入した際、アルミニウムのスペースフレームという軽量で高剛性のボディーを採用したことが衝撃的だった。加えて、高速での安定性を確保する四輪駆動クワトロシステムと、高性能エンジンも導入。卓越した技術者を抱える自動車メーカーが考える理想のセダン像とはこれか、と感心したものだ。「アウディ・クオリティー」と自動車業界で名づけられたボディーと内装における高い品質感である。 最新のA8には、アウディに期待するものがすべて、最新の技術にアップデートされて詰まっている。
インテリアで目を引くのは、理知的な造型美を持つダッシュボードと、二つの液晶パネルを使ってナビゲーションやオーディオなどを操作できるMMIタッチレスポンスだ。さらに、運転席に身を落ち着けると、しっとりした手触りを持つハンドルの奥に、機能的にデザインされた液晶によるグラフィックスのバーチャルコックピットが見える。ナビゲーションの地図も映せるので、運転中の視線の移動が少ないという安全上のメリットもある。
アウディA8で感心するのは、特筆すべきディテールが各所に配されており、それらが実は、一つの目的のために有機的に結びつけられていることだ。A8が目指すところは、ドライバーとしてこのクルマを経験してみれば、恐らくすぐわかるだろう。最高のセダンである。言い換えれば、ドライバーには運転する喜びを、後席の乗員には空間的な余裕と、快適な乗り心地と、さらに数々の装備で極上の居心地を提供してくれていると感じさせる。
現在のアウディの礎であるクワトロ（1980年）の開発の陣頭指揮を執ったのは、ポルシェのレーシングチームの監督もしていた技術者、フェルディナント・ピエヒ氏（2019年8月25日逝去）だ。それだけに、A8もドライバーズカーとして完成されている。力のあるエンジンに、正確なハンドリング、さらに、ダイナミックオールホイールステアリングという後輪操舵機能もドライバーにはうれしい。低速では前輪とは反対の舵角に後輪を向けるシステムゆえ、驚くほど小回りがきく。
新たに物体の認識能力が高いレーザースキャナーを搭載したことにより、時速0キロから250キロまで前方車両との車間距離を自動で調整し、かつ走行中に車両がレーン内にとどまるようにするドライブアシスト機能の精度を大幅に向上させた。
こうした最新技術を採り入れながら、それらをドライバーのために惜しみなく使う。それこそ、アウディA8ならではの価値なのだ。
Audi A8 60 TFSI quattro
ボディー：全長5170×全幅1945×全高1470㎜
エンジン：4.0ℓ V型8気筒DOHCインタークーラー付ターボ
最高出力：338kW（460PS）／5500rpm
最大トルク：660N･m（67.3kgf･m）／1800～4500rpm
駆動方式：4WD
トランスミッション：8速AT
価格：15,520,000円～
※『Nile’s NILE』2019年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています
