今、日本橋が変わりつつある。商業施設が多く立ち並ぶようになっている。その中にあって、クラシカルな存在感が際立つのが、三井本館だ。
1929(昭和4)年に米国のローブリッジ・アンド・リビングストン事務所が設計し、ジェームズ・スチュワート社が施工した建物。関東大震災後に建て替えられため、地震を教訓として、2倍の揺れにも耐えることができるように造られているといわれている。それは、現行の耐震改善促進法に照らし合わせても、基準の2倍を超えるほどだ。しかも、エアシューターや全館完全空調が早くも導入されていた。
当時の米国の最先端技術で作り上げられていたのだ。それは現代にあって、全く古さを感じさせない。
ドイツ車と真っ向から勝負
まさに、キャデラックというブランドとも共通するところだと思う。新型として発売されたCTSを三井本館の前に止めてみると、アメリカンラグジュアリーの競演という印象を受ける。しかもCTSなら、大通りでは威風堂々と走り、車体の取り回しの良さゆえ、日本橋室町かいわいの裏路地も、なんの気兼ねなく走ることができる。
最新のキャデラック CTSは、大きさで他を圧倒してきた、かつてのキャデラックではない。メルセデス・ベンツEクラスや、BMW5シリーズといった、日本でも売れ筋の輸入車と真っ向からぶつかるサイズだ。フロントグリルの縦幅を大きくとることで、低く構えた個性的なスタイルを持つ。ヘッドランプからバンパーに至るまで、LEDのポジションランプが配置され、印象は先代よりさらにシャープになっている。
ボディーサイズは、全長4970㎜、全幅1840㎜と、日本の市街地で扱いやすいサイズ。一方、2910㎜と長いホイールベースのおかげで、後席の空間も広々している。価格的にも、メルセデス・ベンツE250や、BMW523iとほぼ同等。エンジンも2リッター4気筒で、後輪駆動であることも共通している。
しかし、数値を見ると、メルセデスE250(最高出力211ps、最大トルク311Nm)や、BMW523i(184ps、270Nm)と比較して、CTSは276ps、400Nmだから、だいぶ差がある。実際の走りも、痛快という言葉がふさわしい。
出足は軽快。エンジンは下の回転で力を出す一方、高回転域までよく回り、運転が好きな人なら、操縦感覚のとりこになるだろう。
足回りもしなやかで、普段の町乗りでは快適である。高速道路のカーブや箱根などの山道では、ハンドルを切った角度通り、車体が向きを変える。その反応の良さは、ドイツ車と比べても遜色なく、むしろ、運転する楽しさでは、先に挙げたライバルの上を行っていると思えるほどだ。
構造的なことに触れると、「ドライバーとの一体感」は、CTS開発における主目的の一つだったという。そのため、4枚ドアの外板など多くの部品をアルミニウム製に、また、鋼板には構造用接着剤を多用している。それによって強度確保と軽量化を同時に推し進めるという凝り方だ。
人間工学的なインテリア
サスペンションシステムの素材や重量の徹底的な調整、それと関連するが前後50対50というスポーティーなクルマにとって重要な重量配分、さらに、「エレガンス」という上級グレードに標準装備されるマグネティック・ライド・コントロール。走らせて楽しいクルマに作り上げるためのこだわりは、書き出すときりがないほどだ。
乗る人の“仕事”は、キャデラック CTSの機械的な特徴を暗記することではない。運転して、その良さを“感じる”ことである。そしてそれは、先に触れたように、難しいことではない。すぐに分かるからだ。
運転席は、人間工学的に考えられてレイアウトされた操作系とともに、シートの座り心地やハンドルのグリップなど、感触も考え抜かれている。革張りシートの仕上げは専門職人の手仕事だという。
静粛性の面でも、遮音や振動の削減があらゆる面で施されている。そして、走行中の静粛性が高いと、乗員の意識は、操作系のクオリティーに向かいがちだということを、キャデラックの技術者はよく承知している。そのため、先に触れた上質感に加えて、「CUE」(キュー=キャデラック・ユーザー・エクスペリエンス)と名付けられたインフォテイメントシステムが、ナビゲーションや音楽の楽しみを提供してくれる。ノイズが遮断された車内では、13個のスピーカーと10チャンネルで構成されるBOSE(ボーズ)のプレミアムサウンドシステムで、美しい音を聴くことができるのだ。
車体は、上品にホワイトのボディーもいいし、活動的な印象のレッドもいい。また、ブラックダイヤモンドという、小さなフレークがきらきらと輝く塗装に、オプションでブラッククロームのグリルを組み合わせると、一気にスポーティーになる。
キャデラックは不易である
CTSの開発に当たって、「デザイン、ラグジュアリー、テクノロジーにフォーカス」したとキャデラックがうたうのは真実であると分かる。日本において、技術的最先端というとドイツ車がすぐ思い浮かぶ人もいるかもしれない。が、CTSに乗ると、技術のコンテンツだけでなく、より大事なのは、技術をどう使うか、ソフトウエアであることが分かる。先に挙げた三つの要素を上手に使いながら、キャデラックのエンジニアは、CTSを乗って楽しめるクルマに仕上げてくれたからだ。
冒頭の三井本館しかり。技術のための技術を売り物にするのでなく、目的のために正しく使う。それが、不易の存在感につながる。米国はそのことを知っているように思える。キャデラック CTSはそこに大きな価値がある。
※『Nile’s NILE』2014年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています