かつてクルマは、その審美性から建築物に比較された。(1960年代の)クルマは、新古典主義の建築より大きな影響を人に与える、と書いたのは、米国の批評家トム・ウルフだったが、今、クルマの魅力は大きく変容している。
フォードのクーガは、その良き象徴である。欧州で開発されたSUV(スポーツ用多目的車)で、球面を鋭いヘラでそぎ落としたようなシャープなスタイリングは、飾り立てるのではない美。そしてその内容は、環境と性能と安全をバランスさせるという、優れて現代的なものだ。
2013年9月に発売された新型クーガは、スマートSUVと定義されている。1・6邃唐ノ排気量がダウンサイジングされた「エコブースト」エンジンは、パワーと燃費を両立させたもの。これに、通常は前輪駆動だが、路面や走行状況に応じて瞬時で最適な駆動力を四つの車輪に振り分ける「インテリジェントAWD」が組み合わされる。
キネティックデザインの美
さらにクルマの頭脳は、安全面でもフル回転する。低速走行時に前方車両への衝突を自動的に回避するアクティブ・シティ・ストップや、カーブで車体の動きを制御するトルク・ベクタリングコントロール、さらに4輪個別のブレーキや駆動力の制御で安定した走りをもたらすアドバンストラックなどが備わる。
乗り味の方もはっきりしたキャラクターがある。4WD独特のストロークの長いサスペンションがもたらす動きは、クーガが見かけはしゃれた街乗り用SUVでも、実は本格的なオフロード走行ができる内容を持っていることを示している。
実際に独自の車両安全技術であるロール・スタビリティ・コントロールという、ジャイロセンサーで横転の危険性を察知し、それを予防するシステムまで搭載している。この辺りは、4WDの歴史が長く、一時期はランドローバーも傘下に収めていたフォードならではのメリットだ。
とはいっても、鈍重さは皆無。1・6ℓながら、燃料直噴システムと可変バルブタイミング機構、そして広い回転域をカバーするターボチャージャーによって、軽やかな身のこなしを見せ、ハンドリングもスポーティーな乗用車に負けていない。オフロードと市街地、どちらにもきちんと居場所を確保している。
先述のトム・ウルフは、キャンディーカラー、タンジェリンフレーク、ストリームラインと、かつての自動車の魅力を挙げてみせた。一方、クーガのカラーはジンジャーエールと呼ばれ、ボディーは金属的なシャープな輝きを見せる。さらに、車体デザインは流線形でなく、キネティック(躍動的)。60年代と共通点があるとしたら、最新のスマートSUVも、見る者、乗る者を強く引きつける、本質的な魅力を持つことだろう。素晴らしい移動体験への予感がある。変えるべきものは変え、守るべきものは守る、新しい時代のSUVは輝いている。
※『Nile’s NILE』2014年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています