靴磨き職人が磨きたくなる靴

ヒロカワ製靴が送り出す今秋の新作「山陽× GAKU」

Photo Takehiro Hiramatsu(digni) Text Junko Chiba

ヒロカワ製靴が送り出す今秋の新作「山陽× GAKU」

「山陽×GAKU」
「山陽×GAKU」。国内最高峰タンナー・山陽の最高級革が、「熟成」という3カ月のプロセスを経て、さらにハイレベルな味わいを実現している。この靴に向き合うと、「さぁ、もっときれいに磨いて」という、美に対してどこまでも貪欲な声が聞こえてきそうだ。

「スコッチグレイン」ブランドで知られるヒロカワ製靴は、東京・向島に本社と工場を構え、世界に比肩する高品質な靴を作り続けている。

とりわけ革素材へのこだわりは他に類を見ない。廣川雅一社長は上質な素材を求めてフットワークも軽く、世界に点在する革屋を訪ね歩く。アッパーも中底・本底も、厳選した素材のみを使うことが信条だ。

そして「靴磨き職人が磨きたくなる靴」をテーマにした今回、アッパーの革づくりを依頼したのは、兵庫県・姫路にある、国内最大の老舗タンナー(鞣なめし革業者)、山陽である。

「当社とはもう50年来の付き合い。黒を中心に、毎月オランダ原皮のカーフレザーを約600枚、良品質のものを提供してもらっています。山陽さんにご協力いただき、このテーマのもと何枚ものサンプルを作製し、試行錯誤を重ね、やっとたどり着いたのが“熟成”です」

一枚一枚に自然のオイルを吹き付け加工し、10℃の低温冷蔵庫で最低3カ月寝かせる、というプロセスを加えたのだという。

「これがうまくいきました。オイルが自然に革になじみ、表面にブルームという白いワックスの粉が付いた。それで“寝かした感”が出たし、触ると革本来の味がある。さらに毎月ご提供いただいているカーフレザー“ベンゲル”で、より高品質の革を作るため、選別もお願いしました。

第一段階として、皮から革に生まれ変わった瞬間、鞣した後の革“ウェットブルー”を厳選。第二段階として、最終の仕上げ段階の前でさらに厳選。生産の数パーセントしか選定できないため、革の生産ロット100枚を集めるのに数カ月かかります。その希少価値の高い革を熟成させて、アッパーに採用しました。

このこだわり抜いた革で、熟練の職人が作った靴は、まさに逸品。世界の著名ブランドに肩を並べると自負しています。仕上げは通常、つやを一定させるため若干吹き付け加工で均一な肌のキメと黒みをつけるのですが、そんな“お化粧”はやめました。クリームだけで仕上げ、靴磨き職人の“磨きたい欲”に訴えたのです」

廣川社長のこの思いに応えて、オリジナルのクリームづくりに一役買ったのが、名古屋で靴磨き・靴修理専門店「GAKUPLUS」を展開する佐藤我久氏。廣川社長が審査員長を務めた「第一回靴磨き日本選手権大会」で審査員特別賞を受賞した、日本のシューシャイナーのエース的存在である。

スコッチグレインの魅力を「靴磨き」の視点から引き出す佐藤氏は、かねてスコッチグレインのファン。「グッドイヤーウェルト製法ならではの堅牢さはもちろん、革質が抜群に良く、磨きがいがある」からだ。

丁寧に磨き、長い時間をかけて「自分だけの一足」に育てる楽しみがある、それがこの「山陽×GAKU」の大きな魅力である。

秋の夜長、ダルモアのようなスコッチを楽しみながら、そのスコッチを数滴クリームに混ぜて靴のお手入れをしてはいかがだろう。大人の紳士の極上の時間がそこにある。

●スコッチグレイン 銀座本店 TEL03-3543-4192

※『Nile’s NILE』2020年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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