史上最速を競うヨットレース、アメリカズカップ。1851年、ロンドンでの第1回万国博覧会を記念して、英国南部で行われた、世界で最も歴史のあるスポーツレースだ。初回は、唯一外国から参加したアメリカ号が優勝、銀製のトロフィーが「アメリカズカップ」と呼ばれるようになったゆえんである。1983年からルイ・ヴィトンが冠スポンサーとなり、ルイ・ヴィトン・アメリカズカップが正式名称になった。
今年35回目を迎えるアメリカズカップは、前回2013年の勝者のアメリカに、イギリス、ニュージーランド、スウェーデン、フランス、日本の5チームがチャレンジャーとなっている。イギリスは、アメリカズカップの発祥の地でありながら、今日に至るまで勝杯を一度も手にしていない。このため”Bring the cup home”を標語に、ウィリアム王子とキャサリン妃も後援者となり、国中が熱い視線を注いでいる。
イギリスのチームを〝ABOVE & BEYOND〞のモットーを掲げて、力強く支援しているのがランドローバーだ。海のF1とも呼ばれるようになったアメリカズカップに向けて、最速のボートの開発に、イギリスを代表する自動車メーカーとして最先端のエンジニアリング、デザイン、テクノロジーなど全力を投入している。
ヨットチームを率いるのは、オリンピック・セーリングで多くの金メダルを獲得している、ベン・エインズリー氏。2015年から、ランドローバーBAR(ベン・エインズリー・レーシング)として、ランドローバー社との協力で、切磋琢磨(せっさたくま)を重ねて勝利へのパートナーを努めている。昨年、福岡で行われたアメリカズカップ予選などでも、その実力をフルに発揮、通算成績で優勝を果たしたランドローバーBARは、日本でもおなじみのチームとなった。
チームの実力と共に、アメリカズカップの勝敗の大きな要因となるのが、ボートの性能だ。従来のヨットに代わり、2013年以降は水中翼カタマランが登場。船体の大半を水面から浮かせた「ドライセーリング」が、風のように疾走することを可能にした。カーボンファイバーでできた、流線型の船体はまさに飛行船を思わせる。
全長約15mのアメリカズカップ・クラスのレース艇は、全チーム厳格なルールに基づいた同一規格のもので、独自開発できるのはマストの前に張る2枚のセールのみ。「マージナル・ゲイン」の哲学でイノベーションに挑むランドローバーと、軍事国防・航空宇宙事業を手掛けるBAEシステムズが、3隻のテストボートを開発、そのデータを基に人工知能を活用し、アメリカズカップ決戦に向けた最強の水中翼カタマランを完成させた。
最高速度は時速90km、ボートの「飛行能力」であるフォイリング・システムが重要な役割を果たす。この操作を担うのが、スキッパーのエインズリー氏だ。セーリング・チーム11人は全員イギリスの国籍を持つ、先鋭のヨットマンで構成されている。チームベースは、英国南部ポーツマスのランドローバーBAR本部。CEOを務めるのは、マクラーレンF1の代表であったマーティン・ウィットマーシュ氏だ。
ランドローバーBARは、日本のソフトバンク・チームを含む5カ国5チームで5月下旬から6月上旬にかけて行われる予選レースを勝ち抜けば、6月中旬以降に行われる、防衛者オラクル・チームUSAとの一対一のマッチレース「アメリカズカップ」に臨むことができる。