14世紀にこの標高130mの丘に築かれた首里城でも、こうして眼下の城下町や港を望み、花や鳥、海風の運ぶ恵みを享受したのだろう。そうして育まれた4世紀半にわたる琉球王国の文化。遠くジャワやマラッカとも交易した海洋王国の独特の風土と文化が、この首里の丘に色濃く残されている。首里城はもちろん、一帯随所に点在する遺産がユネスコ世界遺産ともなっている。
ホテルの敷地内にも古の拝所が残され、ここを起点に石畳の小道や松並木などをたどって、琉球王国をしのぶ散歩コースへ。首里城の本館は修復中だが、首里城公園内では他の建造物も見学できる。神が降臨するという樹齢数百年の大アカギだが、遥か琉球王国の旅をへと導く。
首里城とその一帯は第二次大戦で大きな被害を受けた。その一画は今、緑豊かなキャンパスを持つ県立芸術大学となっている。戦前は,畑や泡盛の酒蔵が多かったというが、今では沖縄随一のステータスを誇る住宅街に。その閑静な一画に「住んでいるかのようなくつろぎ」をまとい、2018年に開業したフランス系のホテルが「ノボテル沖縄那覇」だ。沖縄産の味わいのある花崗岩と磨き上げた大理石のロビーが、洗練された佇まいで迎えてくれる。
おしゃれな円形のカフェカウンター、ラウンジのソファやハンモックチェアなど、カラフルなインテリアが気取りのない、自由に遊べる楽しいフレンチタッチの空間を演出。328室の客室もコンパクトなシングルから、ゆとりのツイン、機能美も備えたスイートなど多彩なタイプがそろっている。ファミリーのためのキッズクラブ、長期滞在に便利なコインランドリー、フットネスジム、コンビニエンスストアなども完備。大小幾つかの宴会場があり、首里の里を一望にできる宴も好評だ。
ホテルには4軒の異なるタイプのカフェやレストランがある。嘉陽田朝生シェフが厳選した四季折々の旬の食材をふんだんに使った和食・鉄板焼き「登輝(とき)」。
本州にはない沖縄の野菜が並ぶカウンターで、地元名産のもずくや海ぶどうなどの前菜をつまみながら、首里に生まれ育ったというシェフの話を聞く。家庭的な味わいのチャンプルー料理。そして、旨味のあるしっかりとした風味の名産あぐー豚のステーキ。山海の幸を堪能してから、食後のデザートはほのかな甘みのさっぱりとした月桃のアイスクリームを楽しんだ。
フレンチをベースに沖縄の食材を織り交ぜた、沖縄メディテラニアン風の楽しいクイジン「アヴァンセ」は地元客やファミリーにも人気。「グルメバー」では、コーヒーが香るロビーラウンジでカフェ軽食やスイーツが楽しめる。夏の夕刻、プールサイドの開放的なテラスでのバーベキューは、アーバンリゾートならでは。
食後の腹ごなしに、丘を下って中心街の国際通りへ。軒を並べるバーやカフェが、アメリカ小旅行のような気分を盛り上げてくれる。
ホテルの15階には円形をした、プレミアラウンジがある。スイートやプレミアフロアの滞在客が、早朝から夜まで自由に利用できる。朝食や軽食、ティータイム、カクテルタイムが設けられ、ちょっと一息つくには最適だ。地元にも詳しい専任のスタッフが常駐していており、コンセルジュサービスも。ゆったりとした椅子にくつろいで、首里の丘でも最も高いところから、360度ぐるりと那覇のパノラマを満喫したい。
12階と13階のゆったりした客室が中心となっているプレミアフロアもオトクだが、リゾート感があふれるのがテラススイートだ。3階のインフィニティプール(那覇市内唯一!)に続く、専用のウッドテラスに面した客室には、ちょっと風流な半屋外の陶器風呂も。大きな白壁に描かれた、沖縄に原生する植物をモチーフにしたウォールアートにも心が弾む。
専用のテラスはプライベート空間になっており、ここで島風を感じながらパラソルの下で南国の太陽に癒やされて。ひと泳ぎしたくなったら、テラスからそのままプールサイドへ。晴れた早朝、那覇の町の向こうには、海とうっすらと島影が望めた。
豊穣の神が住むというニライカナイの島の伝説……だが、時として恵みだけでなく災いももたらすという。2020年の行く末を思いながら、島影に祈った。
●ノボテル沖縄那覇 TEL098-887-1111
※『Nile’s NILE』2020年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています