ヴィクトリア・ピークの山並みを背景に、ビクトリア湾の水辺に林立する超高層ビルの織りなす香港島のスカイラインは、香港を代表する風景だ。だが、20世紀後半から数多く誕生している超高層都市と異なり、香港島には起伏に富んだ地形とビルの谷間に、緑豊かな風情溢れる町並みが残されている。
中心街セントラルの南の山腹に向かって伸びるガーデン・ロードは、その名の通り緑と歴史的な建物が多いことで知られる。1849年に建てられたビクトリア様式の香港最古の教会、セント・ジョンズ大聖堂があり、その向かいにザ・マレー香港がある。1969年に建てられた英国政府の事務所で、歴史的建造物として昔のままの外観を残しているので、ホテルとして生まれ変わったことに気づかないかもしれない。
2011年に香港資本のホテルグループが入手、英国の名建築家ノーマン・フォスター郷によって336室のラグジャリーホテルとして2017年に開業した。
当時のデザインとコロニアル・タッチを生かしながら、すっきりと洗練された佇まいだ。後ろには広大な緑地公園である香港パークが広がり、まさに都会のオアシスのような寛ぎが。公園内の鳥園に集められた熱帯の鳥のさえずりが、トロピカルなBGMに。
今では商都香港の中心街の高層ビルが水辺に聳えるが、1969年に建てられた時は、香港で一番高いビルであった。25階建だったが、現在は屋上部分に開放的なレストラン・バー「ポピンジェイス」を設置。隣の公園に多いオウムにちなんだ名前だが、海風を感じながら香港の夜景を一望にできるナイト・スポットに。
ここを含め、ホテル内には東西の味覚が堪能できるレストランやカフェが五つ。どれも、リゾート風なたたずまいが人気だ。ウェルネスも重視、一階には25mプールとジム、スパが用意されている。香港公園と合わせたジョギングなどのプログラムも充実している。
客室は香港では最も広く、その大半が50㎡以上のゆったりとした造りだ。モノトーンですっきりとした機能美と優雅さが共存している。特徴は凹型の大きな窓で、直射日光を遮りながら自然光と展望がフルに楽しめる。これは建設された時の工夫で、半世紀前に既にサステナビリティーを駆使したもの。歴史と技術が駆使されたこのビルは、地元コミニティに向けてもヒストリカル・ツアーを行っている。
※『Nile’s NILE』2020年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています