
建設業界の人手不足と賃金水準の実態
近年、建設業界では深刻な人手不足が続いており、納期の遅延や新規着工の見合わせが相次いでいます。その主な要因の一つとして、賃金の低さが指摘されています。しかし、一部では高卒の一人親方の大工が年収800万円を超え、家族を養いながら一軒家に住んでいるといった事例も見られます。また、大手ゼネコンの2024年冬の賞与額を見ても、大成建設が187万円、大林組が170万円と、高水準であることが分かります。では、建設業界全体の賃金水準はどうなっているのでしょうか。また、人手不足の真の原因とは何なのでしょうか。専門家の見解を交えて検証します。
人手不足の現状と要因
現場作業員の確保が難しく、建築資材の高騰も相まって建設費が高止まりし、新規着工の延期が相次いでいます。例えば、東京・中野区の「中野サンプラザ」跡地に建設予定だった超高層ビルは、工事費が900億円以上増加したため着工が保留されました。
建設会社の社員によると、
「施工管理の担当者や大工が圧倒的に不足しており、特に職人の確保が難しくなっています。建設業界は3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強く、休日が少ないこともあり、人が集まりにくいのです。若い人はとび職や内装工には比較的多いものの、左官工などには高齢者が多いのが現状です。また、大卒者の増加により、高卒者が多い職人の道を選ぶ人が少なくなっているのも一因でしょう。」
労働環境の改善
建設業界では長時間労働が常態化し、週休1日が一般的とされてきました。2023年には、大手ゼネコン・清水建設の男性社員が過労自殺し、月の平均残業時間が100時間を超えていたことが労災認定されています。
2024年からは、時間外労働の上限規制が適用され、原則として「月45時間・年360時間」に制限され、違反には罰則が科されることになりました。これにより、大手ゼネコンでは業務用PCのログ管理を徹底し、時間外労働の削減を進めています。ただし、中小の建設会社では依然としてサービス残業が横行しているケースもあり、完全な改善には時間がかかりそうです。
賃金水準の実態
建設業界の低賃金が問題視されていますが、実際の給与水準は幅広く、大手ゼネコンの現場監督クラスでは他業種の大手企業と遜色ないレベルの給与を得ています。特に働き方改革前は30歳で年収900万円を超える人も珍しくありませんでした。
一方で、中小企業や一人親方の収入にはばらつきがありますが、腕の良い職人であれば年収700~800万円は普通であり、地方では高卒で家族を養いながら一軒家を持つ職人も少なくありません。このため、大卒で地方公務員や小売・外食業界の社員になるよりも、高い収入を得られる可能性があると考えられます。
若者の就業者数と業界の構造変化
建設業界は「若者の就業者が減っている」といわれがちですが、実際には新規学卒者の建設業への入職者数は4万人台を維持しており、大きく減少しているわけではありません。しかし、建設業就業者全体の6人に1人が65歳以上となっており、高齢化が進行しています。このため、引退する職人の増加により、業界全体の就業者数が減少しているのです。
また、大手工事会社が地方の工業高校や高専への求人を積極的に行っており、地方から都市部の大企業へ就職する若者が増えています。その結果、大手企業の就業者数は増加している一方で、29人以下の中小企業の従業員数は減少傾向にあります。
建設業界の給与水準と将来性
国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、建設業の平均給与は全産業平均よりも高く、大手企業や優良企業では管理職年収700万円以上が一般的です。そのため、地銀や地方公務員、介護職からの転職者も増えています。また、工業高校や高専の卒業生の求人倍率は10倍以上、高専は20倍以上と高い水準であり、大手企業に就職すれば大卒者並みの給与を得ることも可能です。
しかし、建設業は専門性と資格が求められるため、文系出身者が転職する場合は勉強が必要になります。また、夏は暑く冬は寒い屋外での力作業が主となるため、体力的に厳しい職種であることも理解しておく必要があります。
まとめ
建設業界は依然として人手不足が深刻であり、その原因は賃金の低さだけでなく、高齢化や労働環境の厳しさにあります。ただし、大手ゼネコンや一部の優良企業では高水準の給与が支払われており、長時間労働の是正も進められています。
また、若者の入職者数は減少しておらず、むしろ地方から都市部の大企業へ就職する流れが強まっています。今後の課題は、中小企業の労働環境改善と賃金向上、さらにデジタル化を含めた生産性向上の取り組みを強化することにあるでしょう。
建設業界は専門性と技術が求められる分野であり、努力次第で高収入を得ることが可能です。今後、業界全体の改革が進むことで、より働きやすい環境が整備されることが期待されます。
出典:Business Journal
https://biz-journal.jp/company/post_386653.html