西友の売却に見る「総合スーパー」の終焉 かつてダイエーと争った“王者”の行方は?

1. 西友売却の背景と現状
大手総合スーパー「西友」が売却されることになり、小売業界で大きな関心を集めている。現在の支配株主である米国の投資ファンドKKRは、2022年度・2023年度の黒字化を公表し、2024年には北海道と九州の店舗を分割譲渡した。これにより、ファンドが適切な売却益を見込める状態に整ったと考えられている。

西友はかつてセゾングループの中核企業であり、ダイエーと並ぶ大手総合スーパーとして成長した。しかし、セゾングループの崩壊後、米ウォルマートの子会社となったが、2018年にウォルマートが実質撤退し、KKRが買収した経緯がある。現在の西友は、売上高約6,647億円(2023年度)、経常利益270億円を計上しているが、北海道と九州の売却後の売上規模は5,400億円程度と見られている。

三大都市圏に多くの店舗を構える西友の売却先がどこになるかは、業界の勢力図に大きな影響を与える可能性がある。

2. 買収候補企業とその影響
西友の買収に名乗りを上げている企業には、 イオン、 パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、ドン・キホーテ運営)、 トライアルホールディングス(トライアルHD) などがある。

・イオンの場合
イオンは総合スーパー(GMS)を運営しているものの、現在はGMS事業の利益貢献度が低く、実際には 商業施設の運営や金融事業 を軸としたビジネスモデルを展開している。イオンには総合スーパーの買収実績が豊富にあり、西友の買収後も業態を見直しながら事業を再編する可能性が高い。

・PPIH(ドン・キホーテ)やトライアルHDの場合
PPIHやトライアルHDはディスカウントストア事業を主力としており、 西友の事業形態とは異なる 。そのため、買収後に西友が現在の形のまま存続する可能性は低く、 食品スーパーとしての機能のみが残る と予測される。非食品の売り場は、ドン・キホーテやトライアルのノウハウを生かした業態に転換されるだろう。

3. 総合スーパーの現状と変化
かつて総合スーパー(GMS)は、 食品・衣料品・日用品を一括で販売するワンストップショッピングの場 として隆盛を極めた。しかし、 消費者の購買行動の変化 により、総合スーパーの存続は難しくなっている。

・ イオンの新業態「そよら」
イオンは、従来の総合スーパーを 「食品スーパー+専門店の集積」 という形に転換している。例えば、千葉県の「そよら成田ニュータウン」では、食品売り場を残しながら、ホームセンターのコーナン、スポーツオーソリティ、ダイソー、ABCマートなどの専門店をテナントとして導入している。

・ 西友の事例
西友も近年、多くの店舗でリニューアルを実施し、 食品+日用品に特化 する形に業態転換している。例えば、2024年に改装された 西友平塚店(神奈川県)では、地下フロアをカインズ(ホームセンター)やセリア(100円ショップ)に変更し、食品スーパーとしての役割を強化した。

4. イトーヨーカ堂の事例との類似性
西友の業態転換は、近年の イトーヨーカ堂の改革 と類似している。イトーヨーカ堂は北海道・東北から撤退し、「クレヨンしんちゃん」のモデルとなった春日部店を含む複数の店舗を閉鎖した。

イトーヨーカ堂は、 食品特化、アパレル撤退 という方向性を打ち出しており、 総合スーパーを「食品+日用品」中心の業態へ転換 する動きを進めている。この戦略は、 非食品部門を専門店に任せ、食品スーパーとして生き残る という点で、西友の戦略と一致している。

5. なぜ大都市圏で業態転換が遅れたのか
地方では、 車社会の進展により、郊外の大型店舗が主流 になった。その結果、1990年代から 中心市街地の総合スーパーが衰退 し、地方では20年前から 「食品+日用品特化」+「非食品はテナント化」 の形が進んでいた。

一方、 首都圏や京阪神は公共交通の充実 により、買い物の移動手段が車依存にならず、駅前の総合スーパーが生き残り続けた。しかし、 店舗の老朽化 や 競合施設の増加 により、大都市圏でも 郊外型の業態転換が加速 している。

6. 総合スーパーの終焉と今後の展望
かつて総合スーパーは 「小売業の王者」 とも言われたが、 専門店の台頭 により、その役割を終えつつある。

・ 食品スーパーとしての存続
食品スーパーは立地が重要であり、人通りの多い駅前ならば生き残る可能性がある。しかし、 衣料品や雑貨などは専門店が集積するエリアに消費者が流れる ため、総合スーパーの非食品部門は競争力を失った。

・ 単独の総合スーパーは今後新設されない
今や 単独の総合スーパーを新設する企業は存在しない 。これは、 総合スーパーという業態自体の終焉 を意味する。今後は 「食品スーパー+専門店テナント」の形式 が主流となり、既存の総合スーパーもその方向へシフトしていくだろう。

まとめ
西友の売却は、総合スーパーという業態の終焉を象徴する出来事の一つである。 「食品+日用品特化」+「非食品は専門店に委託」 という流れは、西友に限らず、イトーヨーカ堂やイオンでも見られる。地方では20年前から進行していた業態転換が、 首都圏や京阪神にも波及 しつつあり、今後もこの傾向が加速することが予想される。

ラグジュアリーとは何か?

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