胡瓜を極める-本多哲也 リストランテホンダ

素材の持ち味を引き出し、自在に組み合わせ、洗練された一品を作り上げる本多哲也さん。そんな本多さんがきゅうりに見いだすのは、やはり清涼感と青々とした香り。そして、さまざまな形状に仕立てることで、同じ清涼感や香りもガラリと異なる印象に。そんなきゅうりの多面的な魅力を、異なる側面から捉えた3品を作ってくれた。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

素材の持ち味を引き出し、自在に組み合わせ、洗練された一品を作り上げる本多哲也さん。そんな本多さんがきゅうりに見いだすのは、やはり清涼感と青々とした香り。そして、さまざまな形状に仕立てることで、同じ清涼感や香りもガラリと異なる印象に。そんなきゅうりの多面的な魅力を、異なる側面から捉えた3品を作ってくれた。

金沢産 加賀太きゅうり

鮎を使った冷製のアクアパッツァ(リストランテホンダ 本多哲也 氏)
金沢
「鮎を使った冷製のアクアパッツァです」と本多さんが話す、異色の料理。
鮎は丸ごとコンフィに。加賀太きゅうりは皮をむいて輪切りにし、アサリだしでさっと蒸し煮に。これを鮎のコンフィの下に敷いた。まわりのスープに入るのは、フルーティーさが特徴のタジャスカ種のオリーブオイル、ケイパーのペースト、バジリコ、大葉、イタリアンパセリ、そして加賀太きゅうりをすりおろして軽く絞ったもの。オリーブオイルとケイパーの風味が、とりわけアクアパッツァを彷彿とさせる。加賀太きゅうりをすりおろして絞った汁はゼリー状に固めて添えた。鮎の上にはルーコラのせん切りをこんもりと。辛みが加わり、料理をピリッと引き締める。

鮎ときゅうりを合わせた一品は、冷や汁がヒント。冷や汁では焼いた鯵と冷たいだしを用いるが、ここでは繊細な旨みが魅力の鮎を使い、さらにスープをイタリア風に再構成。「イメージとしては、冷たいアクアパッツァ」と話すように、スープにはケイパーやオリーブオイルを効かせて一気にイタリア料理の世界に持っていく。かつ、きゅうりのすりおろしが入っているので清涼感も格別。鮎の内臓の苦みもまたきゅうりとよく合う。加賀太きゅうりの穏やかな苦みも加われば、暑さで疲れた体をじんわりと目覚めさせてくれる味わいとなる。

館林産きゅうり

館林産のきゅうりと新生姜、薄切りにしてさっと火を入れたサザエのカッペリーニ(リストランテホンダ 本多哲也氏)
館林
館林産のきゅうりと新生姜、薄切りにしてさっと火を入れたサザエのカッペリーニ。鶏のコンソメとたっぷりのキャビアを添える。きゅうりはせん切りにしてから、独特の青臭さを除くために、さっと湯に通す。新生姜も同様に。これらとサザエを和え、よく冷やしたカッペリーニにたっぷりと盛る。全体を混ぜて食べると、シャキシャキとしたきゅうりや新生姜、コリコリとしたサザエ、ツルッとしたカッペリーニという具合に食感のコントラストが楽しい。全体が爽やかな中、キャビアが塩味とコクを、コンソメが旨みをプラスする。

一方、冷製カッペリーニは、ひやむぎからヒントを得て考えた。たっぷりと使うせん切りきゅうりはさっと湯通しして独特の青臭さを除き、同様に切って湯通しした新生姜の薄切りと和える。この新生姜がひやむぎでいうところの薬味の役割となる。ならば鶏のコンソメは、ひやむぎのつゆといったところか。その上質な旨みは、まさにリストランテの味。きゅうりや新生姜などのイタリア料理ではいわば「異端」の素材でも、コンソメと合わされば西洋料理にしっくりとおさまる。キャビアの塩気も、料理全体の格調を飛躍させる。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。