そろそろ「本当のこと」が見えてきたウクライナ戦争

時代を読む 第105回 原田武夫

時代を読む 第105回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第105回 そろそろ「本当のこと」が見えてきたウクライナ戦争

本稿執筆時点(2022年3月末)において「ウクライナ戦争」は終わっておらず、その現況と原因についてはさまざまな臆測が飛び交っている。

私の研究所(原田武夫国際戦略情報研究所)でも引き続き関連情報の収集と分析にあたっているが、そうした中で徐々に「真相」が判明してきた感を強くしている。今回はこのことについて簡単に(出だしだけになってしまうが)述べてみたいと思う。

まず端的に申し上げるべきなのが「本当に戦争に勝ちたいのであれば、ロシアは持久戦に持ち込まなかったはず」ということである。世上、ロシア軍が見掛け倒しであるなどと軽々しく、ある時から語られるようになった。しかしそんなことはプーチン露大統領自身、最初から分かっていて戦争を始めたはずなのである。

またそもそも装備品が次々に破壊されれば、その「増産」という形で需要を喚起できるわけで、戦争経済(war economy)をロシアの側でむしろ回すことができる。戦争はあくまでも「景気回復」のために実は行われているという近現代における常識を踏まえれば、「持久戦に陥り、劣勢が語られるロシアの方が戦略的である」という考えを捨ててはならないというのが私の考えである(ぜひ今後も想起してもらいたいのが「プーチン露大統領は軍人だ」という事実である)。

こう考えた時に必要なのが「発想の転換」なのだ。すなわち「持久戦」に持ち込んだことで困るのはこちら(西側諸国)か、あるいは向こう(ロシア)なのか、冷静に考えてみるということである。この点、もう少し詳しく述べてみよう。

仮にロシアが本当に「領土的野心」のためだけにウクライナに「侵攻」しているのだとすれば、すでに開発済みのさまざまな大量破壊兵器を惜しみなく使えばそれで済むだけのことである。ウクライナの側は少なくとも表面上、核兵器の使用はできない。なぜならば「核保有国」ではないからだ。仮に「実は……旧ソ連時代のものが残っていて」とおもむろに使いだすなどということが生じたらば、それこそ一大事となる。

そうである以上、本気でロシアがウクライナの「領土」を奪おうというのであればこうした大量破壊兵器の使用をすればいいだけのことなのだ。しかし、ロシアは明らかに(少なくとも本稿執筆時点までの間)そうした究極の一手を打ってきてはいない。

むしろ「持久戦」になれば苦しむのは欧州の側なのである。エネルギーはもとより、さまざまな物資・資源をロシアに依存してきたのが冷戦構造崩壊後の欧州の実態なのだ。米国は石油と液化天然ガス(LNG)については絶好の好機とばかりに欧州への「支援」を名目としたセールスをかけているが、問題はそれだけではないのである。

また、そもそもパラジウムやネオンなど、ロシアが圧倒的な輸出量を誇る資源が枯渇すれば、現在のグローバル経済そのものが成り立たないことも明らかだ。そうである時、最終的に米欧による「共同統治」の現場で両者による見解の食い違いが出てくるはずなのである。しかも「持久戦」となれば、その溝はある時、越えがたいものとなってくる。

その意味での「共同統治」の現場として注目すべきなのがG7だ。だから3月になってG7首脳会議がベルギーで緊急に開催された。「対露制裁」で一致が見られたことになっているが、果たして米欧の協調がどこまで続くのかは疑問なのである。

そしてG7は実のところ、表向きのコミュニケをまとめるという作業を超えた、より根幹的な意思決定を、欧州を中心とした王族たちと共に行うフレームワークでもある。ここが機能不全に陥れば、既存の秩序は全て崩れる。

持久戦になればなるほど実はロシアの本音がその意味で見えてくる。それが一体何であるのか。「世界革命」こそがその意図であるならば、本番はこれからなのだ。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

ラグジュアリーとは何か?

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