「名誉ある勇退」という地方創生の切り札

時代を読む-第23回 原田武夫

時代を読む-第23回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第23回「名誉ある勇退」という地方創生の切り札

「今、地方新聞社の論調は、どこもかしこも『アベノミクスはやはり失敗だった』です」

久方ぶりに訪れた我が国を代表する通信社のカウンターパート氏は面会早々、こんなふうに切り出してきた。この2年ほどお休みしてしまっていたが、これまで私は全国津々浦々、地方新聞社が主催する講演会に、毎月のように出講しては「これからバブルがやって来る」と論じてきた。2012年春までのことである。その年の12月、いわゆる「アベノミクス」が始まり、私が語っていた未来図は瞬く間に現実となった。

「そろそろ“続き”をお話しすべき頃ではないか」

そう思った私は、これらの講演会をアレンジしてくださっていたカウンターパート氏の元を訪れたというわけだ。同氏は、いつもながらの笑顔で歓待してくださった。そして語ったのが冒頭の言葉である。

率直に言おう。「アベノミクス」とはそもそもデフレ脱却を目標にしたものではない。「結果的にやるべきことは全てやりましたが、やはりダメでした」と我が国が万歳三唱してデフォルト(国家債務不履行)へと事実上突っ込むための儀式に過ぎないのだ。そのことはこの国を一歩でも外に出るとすぐに分かるのだが、国内にとどまっているとどうしても理解することができない。

だが、「株価は上がっているが賃金は一向に上がらない、街角もにぎわっていない」という現実を日々目の当たりにするようになって、ようやく多くの人々がアベノミクスのおかしさに気付き始めたのである。

それでも私が3年前まで日本中で講演をしていた頃、地方の会場でお会いするお歴々は、まだ余裕綽々といった様子だった。それもそのはず、何となれば有り金全てを日本国債に投資すれば、それなりの利子で儲も うけることができたからだ。「先生、日本はどうなっちゃうのかね、これから」と質問しつつも、決して緊迫感のない彼らの表情が今でも記憶に残っている。要するに彼らにとってこの問題は「中央にいる政治家や官僚たちの問題」であって、「我らが問題」ではないというわけなのだ。

そして2015年、状況は明らかに変わった。日銀による異次元緩和が続く中、我が国では長期金利がとめどもなく下落。もはやこれまでのように「日本国債に投資しておけば黙っていても儲けられる」という時代は終わったのである。そしてこれを受けて地方銀行がまず青息吐息となり始め、再編を与儀なくされている。地方の「金庫番」が騒々しくなれば当然、地方そのものも動き始める。率直に申し上げたい。――地方が起死回生を図るための第一歩。それは各界でいまだに君臨している「長老リーダーたち」にこれを好機として一斉にご勇退いただくことである。

「何をバカなことを」

そんなお叱りの声が、読者の中から聞こえてきそうだ。だが今、必要なのは地方でイノベーションを起こし、それを並み居る諸外国のグローバル・カンパニーと競い合うようにして市場に放り込み、次々に場所を変えては収益を伸ばし、地方の開発の場へ戻していく。そんな「機敏さ」こそ、地方再生のために必須なのである。

グローバル・カンパニーの社長(CEO)の平均年齢は約40歳である。ところが我が国の地方財界となると、60歳はおろか「80歳になってようやく一人前」と呼ばれる驚異的な地域すらある。亀の子戦法ではないが何だかんだと中央にいちゃもんをつけてはその実、日本国債の金利で、食いつなげた日々は終わったのである。ここは一つ、たくさんのアイデアと絶えることのない好奇心、そして何よりも体力のある若者たちにリーダーの座を譲ること。それがこの国における最大のイノベーション(刷新)であり、唯一の生き残り術なのである。

残された時間はほんのわずかである。長老たちが名誉ある勇退でこの国を地方の現場から救うことを心から祈念する次第である。

原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
https://haradatakeo.com/

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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