財務省が目論む「民間版PE」プランの行方

時代を読む-第22回 原田武夫

時代を読む-第22回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第22回 財務省が目論む「民間版PE」プランの行方

この原稿を書き始めたタイミング(2014年11月中旬)で、第2次安倍晋三改造内閣は総退陣、衆院解散総選挙となった。「本当のところ、なぜ突然、衆院解散という流れになったのだろうか」といぶかしく思われていないだろうか。

実のところ私は、その1カ月ほど前から、その確たる兆しをつかんでいた。財務省でまさに消費増税を担当する部局の最高幹部の一人が、私の目の前でこんな風につぶやいたからだ。

「今の経済状況を見ると、安倍総理が消費再増税を決断するのは無理かな。1年、いや1年半くらいが経ち『選挙の禊』を経て、いよいよ決断という形になると思うよ」

私は、このつぶやきが持つ深刻な重みをすぐさま感じ取った。鋭敏な政治感覚を持っているからこそ、このポストにまで昇ることができた幹部氏だ。根拠のないデマを広めるとは考えられない。財務官僚たちは、一体何を考えているのか。

しばし考え込み始めた私に対して、この幹部はこう畳みかけてきたのだ。

「それはともかく、実は、とても重要なプロジェクトが進行中なんだよ。名付けて我が国における『民間版プライベート・エクイティ』設立プロジェクト。聞いたことあるかい?」

寡聞にして知らなかった私は、素直に「それって何ですか?」と尋ねた。すると幹部氏は、満面の笑みで、次々にこんな説明をしてくれた。

「今の我が国を巡る閉塞状況を打破するには、官営ファンドを乱造するのではなく、むしろ阿吽の呼吸で民間セクターの主導によりプライベート・エクイティ(PE)を創るべきだ。5000億~ 1兆円程度の規模になる」

「我が国では、金融機関以下、経済全体が資金供給というと債権債務関係で持ち過ぎ、とかく『低い金利を支払っておけば、元本はそのままでもとりあえず良い』といったユルい状況が続いてきた。そうではなくて株=資本の形でマネーを出し、ガバナンスを利かせていく」

「しかもこのPEからは、1回あたり1000億円程度を出資する。これを見て外国人たちも『むむ! いよいよ日本も本気になってきた』と考えるはず。投資対象は、主に我が国大手企業による海外事業買収案件。最終的には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)から投資させる。これで外国人たちも目の色を変えて、対日投資を加速するはずだ」

気になる「誰が最初のタネ銭を出すのか」という点については、「まずは我が国の商社があまりガネを45兆円ほど持っているのでそこからだ」との答えであった。メガバンクの一部は、すでに前向きな態度を見せていると聞いた。旧財閥グループの各社に対して無駄な持ち合い株の売却を促し、そのマネーをこのPEに加えて流し込むのがその役割なのだという。

私は質問を続けた。

「なるほど。さらに二つ疑問があります。このPEはいつまでに創るのですか? ファンドマネジャーは誰ですか??」

「2015年3月末までには設立してもらうよ。それとファンドマネジャー……確かに我が国の顔になる人物だからなぁ。悩ましいところだよ」

「そういえば、総理時代に官民合同の1兆円ファンドを創ったのは、麻生太郎氏。財務大臣・副総理……」

なるほど「新総理」への“お土産”なのだなと私は直感した。その上でこう切り返す。

「米欧勢にだまされずに投資するためには、我が国固有の金融インテリジェンスが必要なのではないですか? その辺の手当てはどうされるのでしょうか」

すると幹部氏は大笑いしながら、こう答えてくれた。

「原田くん、だから君の出番が来るんじゃないか? 準備しておきなよ」

実は「その後の展開」をあらかじめ描いていた財務省。その奥の院からのメッセージを聞く限り、安倍総理のお役御免は、既決事項だったのだ。どうやら2015年は私にとって、とても忙しい年になりそうである。

原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
https://haradatakeo.com/

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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