エンドゲームのゴールから考える金融メルトダウン

時代を読む-第7回 原田武夫

時代を読む-第7回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第7回

昔、大学時代に先輩からこんなことを言われたことがある。

「デートコースは最後にどこに行くかから考えろよ」

このことは何もかわいい女子大生とのデートだけに通用することではないということを、最近になって知った。何せ経営戦略論の泰斗であるピーター・ドラッカーが同じ類のことを言っているのである。

ドラッカーは「フィードバック分析」を説く。まずは自分が何をしたいのか直感的にメモに書きとめる。同じくそれを通じて、どうなっていることを期待しているのかもメモにする。そして9カ月から1年ほど経ってから、それをこわごわ開けて見直す。そうすることで己の達成度を、己で確かめることに意味があると彼は言う。しかもこのやり方、中世ヨーロッパの修道会で採用されていたやり方だというから驚きだ。ある意味、人間の怠惰とはそれくらい根深いものなのだ。

ここで全く同じことを、現代を生きる私たちに当てはめてみる。すると私たちの人生は、日々変動していく事どもに翻弄されっぱなしで、全く落ち着いたものではないことに気付く。

特に金融マーケットに至ってはその極みだ。「複合リスクの同時多発的に炸裂する」などと言われるようになってから、状況はますますひどくなっている。

その様子は真っ暗な、終わりのないトンネルを全速力で突っ走っているようなものであり、「これなら同じ真っ暗でも終わりがあるディズニーランドのジェットコースター『スペース・マウンテン』の方がマシだ」とついつい思ってしまう。

しかし、である。だからこそ、先ほどの「フィードバック分析」が効果を発揮するのだ。一見すると終わりがないように思える、この金融メルトダウンの「先」において、世界が一体どのようになっていると期待するか。この点に絞って考え方を整理してみるのである。「終点から考えるデートコース」と同じだ。

「考えるだけ無駄だろう。何も変わらず、結局は世界にまたバブルが訪れ、それが崩れるということの繰り返しになるはずだ」

多くの読者がそう思っているはずだ。だが、本当にそうだろうか。

先日、我が国の最高学府で水資源の研究をされている先生とお話をした。するとこう言われたのである。

「今、この世にあるものの大半は化石燃料、すなわち石油がなければ成り立たないのです。トマト一個にしてもそう。その化石燃料が程なくしてなくなる。シェールガスがあると言われているけれども、それが主流になるとはまだ言えない。結果的に化石燃料がなくなれば人口は減っていくのですよ。『人口は等比数列的に増えていく』というマルサスの法則は2050年くらいに間違っていたことが判明するのです」

非常に衝撃的なご教示だった。人口が全世界で縮小するのであれば、インフレ誘導で膨張一本やりの経済体制はもはや成り立たないのである。しかもそれを支えてきた化石燃料は一度使ったら二度と戻ってこない。そうである以上、経済はこれから「縮小」へと軌道を移し始め、「インフレ」から「デフレ」へと移り変わっていくのである。

だとすれば、米欧のベスト・アンド・ブライテストたちが考えるべきことはただ一つ。「縮んでいく経済モデルでもポールポジションを取ること」である。これが彼らのゴールなのである。

ところがそのゴールに立ちふさがっているのが、何を隠そう「日本」なのである。平成バブル不況で日本経済は加速度的に縮んだ。それでもなお我が国は生き残ったのである。実は私たちは彼らのゴールを知っているというわけなのだ。

いよいよ始まった金融メルトダウンのエンドゲーム。そのゴールには、思わぬダークホースが潜んでいるようだ。

原田武夫(はらだ・たけお)
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年に自主退職。2007年から現職に。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いのもと、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で行う。近著に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)『「日本バブル」の正体~なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(東洋経済新報社)がある。
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ラグジュアリーとは何か?

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