オバマ米政権を震撼させる男を支えているのは誰か

時代を読む-第5回 原田武夫

時代を読む-第5回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第5回

6月から7月にかけてアメリカと、世界に激震が走っている。アメリカ屈指のインテリジェンス機関「国家安全保障局(NSA)」で民間委託業者の一員として働いていた若い男が、そこで入手したトップシークレットをいきなり全世界に公開し始めたのだ。

男の名はエドワード・スノーデン。30歳になるかならないかの普通の男性だ。

このコラム原稿を書いている段階においてもなお、この事件は国際社会に激震を走らせ続けている。香港に潜伏していたエドワード・スノーデンはロシアへ出国。そこから中南米に逃げるのではないかと思われていたが、結局、ロシアに政治亡命を申請した。「要するにロシアが若いアメリカ人男性をそそのかしただけの話だったのではないか」そんな声が聞こえてきそうな展開になりつつある。

しかし「そうとも言い切れない」と私自身は感じている。この政治亡命が申請されるのと相前後して、ロシアのプーチン大統領がこんな発言をしたからだ。

「ロシアに政治亡命をしたいのであれば条件が一つある。それはもうこれ以上、アメリカをリークで困らせないと約束することだ」 これもまた、ロシアがエドワード・スノーデンと取引し、全ての極秘情報を獲得したから、こんな発言をしているかのように思えなくもない。

インテリジェンス機関による行動は例外なく全て「プロージブル・ディナイアビリティ(plausible deniability)」という原則にのっとって行われている。つまり後から極秘活動をうんぬんされても「自分たちがやったとも言えるが、やっていないとも言える」ように動くのである。そうである以上、仮にエドワード・スノーデンがどこかの国の二重スパイであった場合はもとより、ロシアが関わっていた場合でも、同国のインテリジェンス機関が同人にどのように働き掛けたのかは永遠に闇の中というわけなのである。

だが私はこうした一連の騒動を見ていてそうしたありきたりの印象とは別の感想を抱いている。なぜならばプーチンが吐いたこの言葉は、素直に取ると「もうこれ以上、国家としてのアメリカをいじめるな。こちら(=ロシアという国家)にもとばっちりが来るかもしれないではないか」という意味に取れるからだ。そこには無敵であるはずの「国家」が、実は何におびえているのではないかという疑惑が見え隠れする。

なぜこのようなことを言うのかといえば、実は私自身、「同じような体験」をしたことがあるからだ。――私は、かつてわが国のキャリア外交官として、北朝鮮問題を担当していた。

しかし「これではいけない。本当の意味で問題を解決することはできない」と現場で強く思うに至り、本来あるべき日本外交を実現すべく、娑婆に自らの意思で飛び出した。2005年のことである。

以来、たくさんの場で発言をし、国家公務員法の範囲内ではあるけれども、幾つかの「際どい発言」もしてきた。

「よくそんなことができますね。命を狙われたりしないのですか?」

日本中で、しばしばそう聞かれる。私自身は真っすぐに正しいことをしていると確信してやまないので恐怖は抱かないのだが、かえってその様子が空恐ろしく見えるようだ

無論、私とて徒手空拳でこのようなことを始めたわけではない。

実はある人たちとの出会いを通じて、自ら確信するに至ったのである。「こうすること」がこれからの世界の、そしてわが国におけるトレンドであり、かつ求められていることなのだ、と。徐々にそう確信するに至った私は「外務省」で得た全てを投げ捨て、この新しい流れに乗ることにした。

それではここで言う「ある人たち」とは一体誰なのか。――物事の性質上、詳しく語ることはできないけれども、あえて言うならば「国家を超えた人的ネットワーク」とでもいうべき存在である。少しずつ知ったその世界には恐ろしいほどの量の「情報」、そしてマネーと知性、歴史感覚があふれていた。私は偶然の出会いが連鎖する中でそうした世界に迷い込んだのだが、そこで一度得た方向感覚のまま進んできて、これまでのところ大過はない。

それはいわば、感じられる能力を持つ人だけが感じる「風」のようなものなのだ。

仏教徒で実は、日本語もしゃべることができるというエドワード・スノーデン。あるいは「ウィキリークス」でアメリカを震撼させたジュリアン・アサンジ。

彼らの姿を見ているとそんな自分の姿を、ついつい重ねてしまうのである。そして思うのだ、「国家を超えた人的ネットワーク」は一体これから世界をどこまで変えようとしているのか、と。

原田武夫(はらだ・たけお)
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年に自主退職。2007年から現職に。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いのもと、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で行う。近著に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)『「日本バブル」の正体~なぜ世界のマネーは日本に向かうのか』(東洋経済新報社)がある。
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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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