バチカンが中国を飲み込む日

時代を読む 第1回 原田武夫

時代を読む 第1回 原田武夫

一般に私たちは「中国は大国だ」と思い込んでいる。いわゆるBRICs(ブリックス)の一つとしてエマージングマーケットの模範例となってからは「中国礼賛論」が絶えない。そのためそう思い込んでいる読者の皆さんも多いのではないかと思う。

しかし中国の当局関係者、とりわけ金融マーケットの当事者たちの話を聞くと全くそうは思えないのだ。むしろ彼らは戦々恐々で、おっかなびっくり次の一手、そしてまたその次の一手と打っている。そうした中国の臆病さが明らかになったのが今年2月に実施された北朝鮮による「核実験実施」の際の対応ぶりであった。一部に事前通告を受けたとされる中国。その中国は「核実験」を止めることができなかったのである。かつては「血の同盟」とまで言われた中朝関係は明らかに北朝鮮優位で進んでしまっている。一体何が今、中国で起きているというのだろうか。

そう考えていた私は今年1月に香港で開催されたアジア金融フォーラムにおいてヒントを得ることができた。香港を代表するシンクタンクで為替分析の統括人物が「人民元はどうなるのでしょうか」との私の質問に対し、こともなげにこう答えたのだ。

「人民元の国際化は、かつて日本と日本円がどのような運命をたどったのかを、精せい緻ち に分析した上で行われています。しかし、円が国際化しなかったように、人民元も国際化しない。そう多くの中国人たちは思っています。私もその一人です」

これを聞いて私には、一つひらめくものがあった。 国際通貨基金(IMF)はここに来て「中国は2020年から2025年になると低廉な労働力が一人もいない国になる」との分析を世界中に向けて発信した。我が国ではどういうわけかあまり話題になっていないが、これは重大な意味を持つニュースだ。

なぜならばIMFには中国も資金を出しており、中国にとって不利なことは言わせないはずだからだ。しかしこの発表があったということは、もはや製造業の拠点としての中国に未来はないことを中国自身が認めたということを意味している。そうである以上中国には一つの選択肢しかない。製造業依存から脱却し、「金融立国」を大車輪で進めていくことだ。これが円を国際化し損ね、20年も塩漬けになった日本から得た教訓なのだ。

だが金融大国・米国と手を組むのは気が引けるはずだ。あれやこれや注文を付けては、かつての日本に対して構造改革を求め、ついには共産党の(事実上の)一党支配にまで口出しをされては困る。そうである以上、そうした口うるさい米国をも凌駕する存在であり、同時に金融立国を助けてくれるパートナーを別に求めることになるはずだ。

実はこうした存在が一つだけある。それは通称「バチカン銀行」と呼ばれるバチカンである。昨年、司教の選任を巡って争っているはずの中国へ、バチカンが密使を派遣したことが明らかになって、大騒ぎになった。そのように宗旨を曲げてまでバチカンが使いをやる理由は「金融協力」しか考えられない。

しかしバチカンからすると中国は「異なる文明の権化」なのである。カトリックの「普遍」を主張する彼らにとって、「中華」という特殊性を主張する中国は抹殺されるべき存在なのだ。そこで表面上はともかく、実際にはこれを機に中国を飲み込み、処断することは当然ありうるのだ。かつて「宣教師」たちができなかったことの実現である。

2月、BRICsの名付け親である米有名投資銀行のトップストラテジストが年内に退任する。もはや中国の追い込みは、完成間際ということなのだろう。そしてローマ法王ベネディクト16世による突然の辞意表明。システム大転換の予兆……。「幻の大国」中国を圧殺する作戦が今、着実に進行している。

原田武夫(はらだ・たけお)
東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省に入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に2005年に自主退職。2007年から現職に。「すべての日本人に“情報リテラシー”を!」という思いのもと、情報リテラシー教育を多方面に展開。自ら調査・分析レポートを執筆すると共に、国内大手企業等に対するグローバル人財研修事業を全国で行う。近著に『ジャパン・シフト 仕掛けられたバブルが日本を襲う』(徳間書店)がある。
https://haradatakeo.com/

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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