小金持ちが日本を潰す

時代を読む 第43回 原田武夫

時代を読む 第43回 原田武夫

お金を手渡す

今年の春からまずは仙台で「グローバル経営者・起業塾」というプロジェクトを推し進めている。アベノミクスで日銀はせっせと輪転機を回し、日本円をばらまこうとしているが、各地の金融機関には「資金需要」を見いだす力がない。平成バブル崩壊以後、「銀行法上の貸し付け以外は一切やるな」というコンプライアンスの呪縛にとらわれていたからだ。その結果、これら金融機関が日銀に置いてある当座預金口座だけが膨れ上がり、揚げ句の果てにペナルティーとしてのマイナス金利すら課され始めている。しかし、できないことはできず、また不可能なことは不可能なのである。結局、「のどから手が出るほど事業資金が欲しい」中小企業経営者や起業家たちに、マネーは一切届かないままとなっている。

そこで私たちの研究所は、地方におけるこうしたギャップを埋めるべく、件のプロジェクトを始めた。一方では、地場の金融機関や経済団体にお声がけし、他方では経営者・起業家の方々にお集まりいただく。そして、後者における「資金需要」をある程度整えさせていただいた上で前者におつなぎし、もって地場を支える産業に育っていかれるのをお手伝いするというのがその趣旨だ。まずは仙台で始めたが、これから秋田・松山・福岡等、順次全国で展開していく予定である。

そうした中ではっきりと気づき始めたことが一つある。それは地方の現場において、優れた技術を持った中小企業や、起業家たちを潰しているのは、実は「篤志家」「エンジェル」として登場する、地場の小金持ちの皆さんだということである。意外に思われるかもしれないし、場合によっては読者ご自身がそうした方かもしれないが、事実は事実であるからここに書いておきたい。

なぜ「小金持ちが地場の優れた技術を潰している」のか。中小企業経営者や起業家たちが優れた技術をもってビジネスのシーズ(種)を創り上げようとした際、最もネックとなるのが資金である。とにかく資金が足りず、何度もショートしかけてしまう。そこで何とかもがいてたどり着くのが、たいていの場合、地場で地道な商売を行い、それなりに財を築き上げてきた「小金持ち」の方々なのである。

そしてこれら「小金持ち」の皆さんは、半分は社会貢献の気持ちで、そして、残り半分は「もうかるかもしれない」という期待感から、まったくもって「つかみ」で現金を出す。当然、与えられる側の中小企業経営者や起業家たちは喜ぶわけであるが、だがこれが実は悲劇の始まりなのである。

なぜならば与えられる側も、与える側も往々にして法律に疎いからだ。そのため、経営者や起業家の側は会社に対して、支配権のある普通株で篤志家たちからの資金を受け入れてしまうのである。

そして、事業が何とかうまくいき始めると、とんでもないことをしてしまったことに気づくのだ。もっとも「過ぎたるが及ばざるがごとし」とはまさにこのことなのであって、下手をすると過半数の普通株を握られてしまっている経営者や起業家たちは、手塩にかけた会社や技術を手放さなければならない立場に置かれることになる。その結果、当然のことながら経営にやる気がなくなり、下手をすると失速してしまう。

与える側である「小金持ち」の側もうまくいきそうになると、強欲な本性を隠せなくなる。結果、経営者・起業家との間で争いとなり、「それでは」と子飼いの人物で入れ替えようとするが無理なのだ。しかも、こうした支配権が確立した企業に追加的な資金を出す金融機関はない。その結果、地場のエースになるはずのベンチャー企業は壊死するのである。

こうした悲劇を防ぐには、入り口において持つべき正しい知識を地方の現場で植え付けるしかないというのが率直な印象だ。

カギは「教育」である。さもないと「小金持ち」が日本を潰してしまう。そう強く思う今日この頃である。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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