アメリカ人が英語を話さなくなる日

時代を読む 第45回 原田武夫

時代を読む 第45回 原田武夫

IDEA

「リンガ・フランカ(linguafranca)」という言葉がある。古代から中世に差し掛かるころ、欧州での共通語は「フランク人たちが話す言葉」であった。これがリンガ・フランカなわけであるが、その後、国際社会全体で誰しもが話す言語のことをそう呼んでいる。現在、これが英語(English)であることは誰も疑う余地がない。

しかし「今後も未来永劫(えいごう)、リンガ・フランカは英語であり続けるのか」と言えば、実は疑問なのである。「まさか」と多くの読者は思うかもしれない。

それもそのはず、世界中どこに行っても英語の教科書があふれているからだ。我が国についても大学では第2外国語という科目が続々と廃止されており、英語だけしか学ばない学生が急増している。その意味で「英語の地位は永久不可侵」であるかのように見えなくもないのだ。

最近、こんな話を聞いた。情報源は、米国の超難関大学で学長の次の席次を持つ日本人名誉教授である。私のメンターの師匠がこの先生であり、時たま、米国のトップエリートたち、しかもアカデミズムの最高峰に位置する者たちが、一体どんな思考をしているのかを教えてくださっている。この時もそうであった。北海道に暮らすメンターが、かなり興奮した勢いで電話をかけてきたのである。

「 原田くん、これから米国はとんでもないことを仕掛けてくるようだぞ。米国にいる先生がつい先ほど、電話をかけてきたんだ」

話を聞くとこうであった。――米国で2000年に生まれた赤ん坊の中でもIQが明らかに高くなると判断できる子供たち25名が選りすぐられ、親からも完全に隔離した形で育てられている。無論、選定したのは米国の「国家意思」である。そんなものが存在するのかと思われるかもしれないが、私たち日本人からは、決して見えない形でそれは現に存在しており、緩やかなネットワークを超エリートたちの間で構成しながら、大所高所からの判断を行っているのだ。

ここでショックなのが、実はこの「選りすぐりの子供たち」25名は何と、英語ではなく、それとは全くかけ離れた人造言語で完全に育てられているということなのである。英語ではないだけであればまだしも、そもそも文法や単語が完全に英語とは異なるというのだから驚きだ。

実は件の先生が名誉教授として所属している、米国を代表する大学では四半期に1回、学長以下筆頭の教授陣と、それを支える企業家たち( 日本人ならば誰でも名前を聞いたことがある経営者たちばかりである)の間で、定例ランチ・ミーティングが開催されている。今年の半ばに行われたこのミーティングの場でのテーマがまさにこれだったのである。そしてその時、並み居る有名な学者や経営者たちは口々にこう相談しあったのだという。

「 この子たちは現在、16歳だ。あと2年も経てば18歳になるため、野に放たなければならない。その時、どうやって世間に彼・彼女らの存在を示すべきか」

それもそのはず、米国という超大国であり、グローバル社会のリーダーシップをとるべき国家の中核に位置すべき天才中の天才が、事もあろうに英語ではない他の言語を母国語としているなどということは、スキャンダル以外の何ものでもないからである。国家の最高意思だからこそできる壮大な社会実験だが、その影響は米国国内だけに限定されるものではないのである。

なぜならばこうすることで、諸外国は「米国の知性」と話すために、今度はこの全く新しい人造言語を学ばざるを得なくなるからだ。いや、もっと言うならば、英語そのものに対する需要も減ってくるに違いない。やがて「英語」を学んでいるようでは、「使用人」にしかなれないと、はっきりとするからである。まさにこれは、「言語を用いたソフトなテロ」にほかならない。

「米国人ですら英語を話さなくなる日」――そんな現実が到来する瞬間が刻一刻と近づいている。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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