海南島で考えたこと

時代を読む 第48回 原田武夫

時代を読む 第48回 原田武夫

船

先月下旬に中国・海南島をスタッフと共に訪れた。この島を訪れるのは2度目のことであり、前回は1年半ほど前だった。「海南島」という名はあまり聞き覚えがないかもしれないが、中国最南端にある巨大な島であり、我が国でいうと九州にちょうど匹敵するほどの規模を誇っている。北端にあるのが省都の「海口」であり、ここは亜熱帯に属している。ところが南にあるリゾートの拠点である「三亜」は完全に熱帯に属しており、よく見ると植生も違う。まさに南国であり、周りを包み込んでくれる自然の全てが南国モードなのだ。時間の流れがゆったりとしているのが肌身に染みて分かる。

この島を再訪したのには訳がある。華僑・華人勢力に属している私の親しい友人であり、事業パートナーである人物がこの地で盛んに事業展開を行っているのである。この人物(ちなみに女性である。いや「女傑」といった方が正しいか?)は、父上がこの島を取り仕切る立場を務めていたが、1989年に発生した「天安門事件」で失脚。その後、兄上が人質にとられた上で一家離散を強いられた。女史だけは父の命で大阪に行き、そこで大学に入学したが、深夜喫茶でバイト代を稼いでは糊口をしのぐような厳しい日々を送っていたのだという。

しかしその後、まさに文字通りの立身出世を果たした彼女は、今や「大富豪」である。邦貨換算で数兆円もの預かり資産を誇るプライベートバンカーであり、全世界を飛び回りながらこの島に年間数回やって来る。事実上の本社機能の一つがこの島にあるのだ。本当は「名目上、本拠地は北京」であるそうだが、大気汚染があまりにもひどいので、今や北京オフィスは空室のまま置いてあるのだという。やはり「党」との関係で完全撤退は難しいのかもしれない。

今回の訪問でひときわ目立ったのが、省都・海口にそびえ立つランドマークタワーの建設が着工されていたことだった。実はこの建設にあたって、私は彼女から「日本の企業で資本参加したいのならばいつでも受け付ける」とのオファーを受けていた。そのため、いくつかの大企業を回ったのだが、どこも首を縦に振らないのだ。その後、我が国では「不動産バブル」が騒がれるようになり、オフィス価格が着実に低下し始めるわけだが、それでも「我が国の方が絶対に安全」といって聞かなかったのである。

それでもただすと皆さん異口同音に言ったのが、「海南島開発は失敗に終わったのでは?」ということなのであった。確かに今でもグーグル検索で「海南島」と検索すると、この地の経済開発が大失敗に終わったというコラムが真っ先に出てくる。現地に行ったことのない方々は、まさにこのコラムを真に受けてしまい、「投資になど値しないし、訪問すら意味がない」と思ってしまう。

しかし「何でも見てやろう」(小田実)ではないが、とにかく現地実踏主義なのが私なのであって、今回もその意味であらためて現地をこの目で見るべく、この島に向かったというわけなのだ。そして、そこで見たのはたったの1年半前とは比べ物にならないほど発展した街の様子だった。

俗に「日本人とアラブ人が来たらその市場はおしまいだ」と言われる。要するに日本人が来た時には、そのマーケットは既に食べつくされた後だということだ。たった目と鼻の先にあるはずの海南島でも、まさにそのストーリーが始まりつつある。本当は「今の今」こそ、関与すべきところなのであるが……。しかし、最後の最後に日本人が来るのだろう。一体どうすれば、我が日本人のこの悲しい性は変わるのだろうか。

――美しい三亜の波間を見つめながら、ふとそんなことを思っていた。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

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