日本デフォルトと北方領土

時代を読む 第73回 原田武夫

時代を読む 第73回 原田武夫

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「ロシアは返すとしても歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島だけ。絶対に残りの2島は返してこない」

ロシアだけではなく、我が国においてもそうした論調が声高に語られるようになって久しい。「四島返還を主張し続けないと我が国の領土を虎視眈々と狙う他の近隣諸国との関係で示しがつかなくなる」と正論を吐いているのは、そもそも我が国外務省だけというのが実情だったが、それも最近は徐々に小さな声になりつつある。今や、完全にロシア側のペースにのみ込まれている。それが我が国固有の領土であるはずの北方領土を巡る返還交渉の実態なのである。

しかし、ロシア側の「真意」は全く別のところにあるようなのだ。マーケットの奥底で蠢うごめく「越境する投資主体」の雄が教えてくれた。我が国では全く知られていないが、その実、各国の王族や政治リーダー、財界から信頼され、巨額の資金の運用を任されている御仁だ。

この人物曰いわく、「ロシアは実際のところ、四島返還をすでに決めている」のだという。まさかと思ったが繰り返しそのように教えてくれているので、間違いない非公開情報なのだと私自身は考えている。それでは一体どのような条件づけで、そうした「四島返還」をロシア側としては実現してくれるというのであろうか。

プーチン露大統領は策士である。我が国の側において誰しもが「北方領土は絶対に返ってこない」と思い込んでいる真っただ中に「シンゾー、いい加減、例の領土問題を解決しようじゃないか」と公開の場で安倍晋三総理大臣に語り掛けてきたのだ。

慌てふためいたのが我が国であることは言うまでもない。爾後、交渉は完全にロシアのペースで進められてきている。

そうした中でどうも腑に落ちない点があるのだ。確かに択捉(えとろふ)島にはロシア海軍最大の潜水艦基地がある。しかも付近には深い海溝があり、そこに原子力潜水艦が潜んで敵を待ち伏せするには非常に都合が良いのだ。そうである以上、国後(くなしり)島と択捉島をロシアが返還することは永遠にない。そう思ってしまうのが当然の流れなのである。

だが、繰り返しになるが「策士プーチン」のことなのだ。普通のレベルで思考しているとはおよそ考えられないのである。ある意味、「人智を超えたレベル」での思考や発想を踏まえた上で、結論として今この瞬間に我が国との交渉に踏み切ったに違いないのだ。しかもどのみち、時間がかかる交渉になるのは目に見えている。そうである以上、ややリードタイムも含めた上で「交渉開始」を先ほど述べた通り、いきなり宣言したと考えるべきなのだ。

それでは一体、何との関係で「リードタイム」を計ったというのであろうか。――この関連で大変気になるのが、ここにきてインターネット上のロシア系プロパガンダ媒体である「スプートニク」が、1919年にロシアの反革命勢力から我が国が事実上強奪したとする莫ばく大だいな量の金塊の存在を伝え、その関連資料をネット上にアップしたことなのである。ロシア側はこのニュースの中でご丁寧にも、我が国の横浜正金銀行(当時)の関係者が合意文にサインしたことまで史料の写しを提示しつつ、説明している。同銀行は国策銀行であったわけであり、要するに我が国の当時の「国家意思」として奪ったはずの「ロマノフ朝の金塊」を返せと言い出しているのに等しいのである。

このニュースを見て、私はすぐさま気づいた。「四島返還」の代償はこれなのではないか、と。要するに我が国の側が戦前にロシア側から強奪し、隠匿するに至った莫大な量の金塊を返還してもらえば、島は返すということなのではないか。当時、統帥権を軍に対して持ち、「シベリア出兵」を命令したのは天皇だったのである。そして、その資産は常に全体像を隠され、「簿外資産」として処理されてきたというわけなのだ。

要するにこういうことである。プーチン露大統領がひざ詰め談判したいのは、一政治家などとではないのだ。我が国の「象徴」であり、簿外の世界にも責任を負っているとロシア側が考える皇室、とりわけ天皇だけがその交渉相手なのである。

我が国では新天皇が即位する、そのタイミングを狙って「金塊奪還交渉」を仕掛けてきたのが、ロシアと考えるべきなのではないか。今、「枠組みの外側」の思考こそが、求められている。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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