東西を俯瞰する眼–帝国ホテルとライト 前編

1923年に開業した帝国ホテル2代目本館(通称・ライト館)を設計した建築家フランク・ロイド・ライト。ライト館誕生100年を機に、今もその影が色濃く残る帝国ホテルを探訪する。

Photo Satoru Seki Text Junko Chiba

1923年に開業した帝国ホテル2代目本館(通称・ライト館)を設計した建築家フランク・ロイド・ライト。ライト館誕生100年を機に、今もその影が色濃く残る帝国ホテルを探訪する。

  • 博物館 明治村 博物館 明治村
    繊細な幾何学模様のステンドグラスに縁取られた大きな窓を通して、自然の陽光が降り注ぎ、四季移ろう庭の風景が広がる。また建築の内外に同じ素材を用いる辺り“空間の魔術師”と呼ばれたライトらしいこだわりを感じる。
  • 大谷石の壺 大谷石の壺
    (右)大谷石の壺は池に対峙する形で正面玄関に飾られているほか、建物の随所で見られる。(左)スクラッチタイルと大谷石が組み合わされた柱は照明を兼ねる。この“光の籠柱”から柔らかな光があふれる。
  • 美しい照明もライトによるデザイン 美しい照明もライトによるデザイン
    (右)幾何学模様が美しい照明もライトによるデザイン。
    (左)栃木県宇都宮近郊で産出された大谷石は、加工しやすく燃えにくい特性を持つ。またスダレ煉瓦やテラコッタは愛知県常滑市に設けた帝国ホテル専用の煉瓦製作所で造られたという。
  • 博物館 明治村
  • 大谷石の壺
  • 美しい照明もライトによるデザイン

一方、ライトは帝国ホテルの設計という仕事をどう受け止めたのか。おそらく一つの良い転機になると喜んだのではないかと推察する。というのもちょうどその頃、「プレイリースタイル(草原様式)」と呼ばれる独自のスタイルで一躍“建築業界の寵児”に躍り出た彼だが、さらなる進化と新しい刺激を求めていたのではないかと思われるからだ。日本での仕事は心機一転して新たな世界を切り開くうえで、一服の清涼剤になったに違いない。それは、 1923(大正12)年に開業した帝国ホテル2代目本館、通称・ライト館のすばらしさが如実に物語る。

  • 自然の陽光に包まれるメインロビー 自然の陽光に包まれるメインロビー
    煉瓦を通して差し込む自然の陽光に包まれるメインロビー。どんな豪奢な照明もかなわない、ぬくもりと安らぎ、そして活力を演出する。
    写真提供/帝国ホテル 東京
  • 吹き抜けのプロムナード 吹き抜けのプロムナード
    (右)吹き抜けのプロムナードは開放的でダイナミックでありながら、優雅で落ち着いた雰囲気。
    (左)“光の籠柱”が印象的なメインロビーの中央は、3層吹き抜けの開放的な空間。
    写真提供/帝国ホテル 東京
  • 幾何学模様を施した外観 幾何学模様を施した外観
    大谷石やスダレ煉瓦、テラコッタなどを多用し、多彩な幾何学模様を施した外観。
    写真提供/帝国ホテル 東京
  • 自然の陽光に包まれるメインロビー
  • 吹き抜けのプロムナード
  • 幾何学模様を施した外観

帝国ホテル2代目本館の最大の特徴は、建物の内外に大谷石と黄色いスダレ煉瓦(スクラッチタイル)を多用し、そこに施した多彩な幾何学模様により独特な世界を描出しているところ。中央に池を配したシンメトリーな構造が圧倒的な存在感をもって見る者の心に迫ってくる。また壁画や彫刻、家具、敷物、照明器具、食器など、インテリアの大半をライトが自ら手掛けたあたり、建築とインテリアとの調和を重視する理念が貫かれていると感じる。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。